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名画プレイバック

セーラー服の池上季実子が美しい!大林宣彦の伝説的ホラー『HOUSE ハウス』

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「HOUSE ハウス【東宝DVD名作セレクション】」(価格:2,500円+税)は発売中 発売・販売元:東宝

 暑~い夏を涼しく乗り切るために、ホラーなんていかが? そんな流れを想定して作品選びを試みるも、実はさほど、邦画特有のじっとり系ホラーが得意でないことに気づく。怖いのヤダな~、ちょっと変化球なホラーはないものか……そういえば! 大林宣彦の商業映画監督デビューは1977年の『HOUSE ハウス』。これが、ものすごくヘンテコなホラー映画だったことを思い出す。改めて観たそれは、想像以上のパンチ力を備えたカルトを超えたカオス、本物の超カルト映画だった!(浅見祥子)

 映画の主人公は仲間からオシャレと呼ばれる、さらさらロングへアの女子高生。高校の演劇部で花形女優として活躍する、お嬢様だけれどおてんばな女の子だ。演じるのは18歳の池上季実子。当時すでに完成された美しさの池上は、『陽暉楼』(1983)、『華の乱』(1988)と今や文字通りの大御所女優である彼女の姿とそのまま違和感なく重なるため、あの池上季実子がセーラー服!? と一瞬ムダに動揺してしまう。画面から(勝手に)受けとってしまう重量感がハンパないのだ。けれど基本的にこれは女子高生がたくさん出てくるアイドル映画で、彼女たちのセリフは棒読みでお芝居はほぼ平坦なので、奇妙奇天烈なストーリーとうまくバランスが取れているという不思議。

 そんなオシャレがママを亡くして8年、映画音楽の作曲家であるパパ(『木枯し紋次郎』(1972)の原作者として知られる作家の笹沢左保。マジか!)は突然、新しいママ(鰐淵晴子)を連れてイタリアから帰国する。メイクもファッションも派手な継母ーーこの人が登場すると、まるで首に巻いたスカーフをなびかせるためかのようにいつでも強い風が吹くーーを、オシャレは簡単に受け入れられない。「夏休みは新しいママと軽井沢へ避暑に行くぞ」というパパの計画に反発したオシャレは、演劇部の仲間と一緒に母方の伯母、おばちゃまの屋敷を訪れる。少女らは一人また一人と、屋敷の餌食になっていく……。

 映画会社から「『JAWS/ジョーズ』(1975)のような映画の企画はない?」と言われ、当時売れっ子のCMディレクターだった大林が考えたのがコレ。サメが人を喰うなら、家が人を喰うっていうのはどう? という、割とストレートな発想からスタートしている(タイトルもそっちが『JAWS/ジョーズ』なら、こっちは『HOUSE ハウス』みたいな)。でもそこはこれ以降、今度は映画の世界で売れっ子となる大林監督。やりたいことをコレでもか! とデビュー作へぶっこんでいく。

 オシャレと一緒におばちゃまの屋敷を訪れるのは、夢見るドジっ子のファンタ、優等生な眼鏡キャラのガリ、空手が得意なクンフー、食いしん坊のマック(スト“マック”?マクドナルドのこと?)、乙女チックなスウィート、ピアノが得意なメロディーの7人。何だそれ? なニックネームの彼女たちを演じる中にはファンタ役の大場久美子や、クンフー役の神保美喜らの姿もある。『転校生』(1982)、『時をかける少女』(1983)、『さびしんぼう』(1985)の“尾道三部作”や薬師丸ひろ子の『ねらわれた学園』(1981)とアイドル映画の可能性を切り開いた監督だけに、少女たちをいかに撮れば魅力的に映るか? に興味津々だった様子。確かにアイドルとしてブレーク前夜の大場久美子は人懐っこい笑顔が愛らしくて妙に心惹かれるし、猫背な感じの回し蹴りとか、これクンフー? と首を傾げさせるアクションを繰り出す神保美喜も、その溌剌とした存在感が際立っている。

 でもやはり目を引くのはヒロインの池上季実子だ。映画の中心にいてその背骨を支える主役として存在するさまは、他の6人とは少しだけ違う世界にいるよう。「水戸黄門」の由美かおるにも負けない(……って、古いよな~)入浴シーンや和服姿の色気ときたら! とてもティーンエイジャーのそれとは思えない。まっすぐにカメラを見据える瞳にぎゅ~っと気持ちを掴まれてしまう。実はオシャレには幻のような存在との一人二役の意味合いもあるのだが、そんな現実離れした設定もそのままに受け入れ、その存在の中に呑み込んで堂々と存在してみせるのだからやはりただ者ではない。

 とはいえこれは、お芝居にじーっと見入って味わうようなタイプの映画にあらず! おもちゃ箱をひっくり返したかのような映像的な遊びと、アナログにしてキッチュな特撮が全編に散りばめられている。演劇部のメンバーが東京駅に集合しておばちゃまの家へ行く過程はまるでミュージカルのよう。ゴダイゴ(!)による洋楽のようなポップソングにのって、電車を降りて田舎に着いたあたりの背景は明らかな書き割りだったりして(いや風景の絵に“背景は書き割り”と書いてある!)。演劇部の顧問は「また逢う日まで」を大ヒットさせた歌手の尾崎紀世彦だし、東京駅で演劇部のメンバーをナンパするのはゴダイゴのメンバーだ。それで彼女たちが移動の途中で出会うスイカ屋の親父は、この映画の音楽も担当する小林亜星である(麦わら帽子が似合い過ぎるっ)。しまいには大林監督自身も、電車のホームで恋人と別れを惜しむ男という設定でコミカルな小芝居をしている。さらにはなぜか『トラック野郎』の菅原文太や『男はつらいよ』の渥美清のそっくりさんまで顔を出し、特別出演が多過ぎてメモを取る手が追いつかない! 出演者だけでなく、助監督にはのちに『死の棘』を撮る小栗康平監督の名前まである……。

 そして特撮だ(ようやくこの話にたどり着いた)。メンバーがおばちゃまの屋敷にたどり着くやいなや、古い洋館を舞台にしたホラーにお決まりの、シャンデリアが落ちてくる! すかさずクンフーが、えいっと飛び蹴り(しかも奇妙なストップモーション)。そこからはもう、大騒ぎ。メロディーの指がピアノに食べられた! 入浴中のオシャレの背中をつたって、何者かの長~い髪の毛がするするとはい上ってくる! おばちゃまが誰かの手首を上品に料理して食べている! 井戸で冷やしておいたはずのスイカを引き上げたつもりが……これ誰の生首!? という具合に家が少女たちを襲う事件が続発し、どこまでも過剰に表現されていく。CMを演出するテンションのまま長編映画を撮っているようで、1カットにさまざまな工夫や情報が濃密に詰め込まれているのだ。テレビドラマ「時効警察」シリーズ、映画『俺俺』(2012)の三木聡監督とは違った意味で小ネタが過剰! とでもいおうか。しかも美少女、化け猫、ピアノによる美しい旋律、古い洋館、戦争、実験的な映像表現と、以後の作品で炸裂していく“大林ワールド”の片鱗があちこちに見てとれる。かねてからやりたいと思っていたことを全部やってみたのか、次回作を考えて出し惜しみせずに今持っているもののすべてをぶつけたということか? つくり手の“はじめの一歩”は、いろいろな意味で興味が尽きない。

 しかもこの映画の根底に流れるのは、おばちゃまの悲しい過去。遠い昔、結婚の約束をした最愛の人(THEハンサム! な三浦友和)を戦争で亡くしたという悲劇にある。おばちゃまは長い間、その決定的な事実を受け入れられないままでたった一人、人里離れた屋敷で彼の帰りを待ち続けていたのだ。時を超えた純愛……それもまた、大林監督の得意技。肉体は滅んでも、胸をかきむしるほどに強く誰かを想う気持ちは消えることはない。やはり大林監督は、かなりのロマンティストなのかもしれない。

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