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「GLOW」「KIZU-傷-」…注目の4人の女性クリエイターたち

厳選!ハマる海外ドラマ

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 女性の活躍は、ハリウッドの最大の課題の一つだ。昨年は「ビッグ・リトル・ライズ ~セレブママたちの憂うつ~」のリース・ウィザースプーンニコール・キッドマンといった、女優が自ら企画を立ち上げるケースが脚光を浴びたが、そもそも現在のテレビ業界の活況には女性のクリエイターたちの存在が欠かせない。映画でいうなら、自分の好みかどうかや作風は監督で判断する人が多いと思うが、ドラマにおいて作品の色を決めるのはクリエイターでありショウランナーと呼ばれる人々である。そこで、普段はなかなか注目されることの少ない女性のクリエイターから4人をピックアップ。エミー賞を筆頭に主要なアワードを賑わせる、ぜひとも名前を覚えておきたい気鋭の才能を代表作とともに紹介する。

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リズ・フラハイヴ&カーリー・メンチ「GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング」

GLOW
「GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング」シーズン2より

 今年のエミー賞コメディシリーズ部門の作品賞ほか6部門で候補になっている「GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング」(本連載のレビューを参照のこと)は、1980年代を舞台に女子プロに奮闘する人々を描いたドラメディ。最高におかしくて胸が熱くなる群像劇を手がけたのが、リズ・フラハイヴカーリー・メンチのコンビだ。二人は、ケーブル局Showtimeの傑作ドラメディ「ナース・ジャッキー」(2009~2015)のスタッフとして知り合った。現在、フラハイヴとメンチはブリー・ラーソン主演のアメコミ大作『キャプテン・マーベル(原題) / Captain Marvel』(2019年3月8日全米公開予定)の脚本に名を連ねているという意味でも注目の才能だ。

GLOW
「GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング」シーズン2より

 「ナース・ジャッキー」はジャンキーで不倫している看護師ジャッキーを、イーディ・ファルコが好演している異色作。一部では不道徳極まりない! との声もあったようだが、ナースとして一流だけど人としては最低、そんな女性キャラクターがいたっていいじゃないか。ダメ男が主人公のドラマはたくさんあるのに、ダメ女が主人公で成立しないわけがない。そんな時代の空気を色濃く反映した本作の、アメリカン・ニューシネマとでも言いたくなるような、破滅へと向かうジャッキーの生きざまは「ブレイキング・バッド」(2008~2013)に通じるものがあるかもしれない。

Weeds
「Weeds ~ママの秘密」より

 同局には、これに先んじてシングルマザーが二人の子供を養うために大麻の密売人となる「Weeds~ママの秘密」(2005~2012)という、これまた画期的な優良シリーズがあった。メンチはこの「Weeds」にも携わっており、「Weeds」のクリエイターが「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」の生みの親でもある大先輩のジェンジ・コーハン。「GLOW」でも製作総指揮を務めており、フラハイヴとメンチをバックアップしている。よってコーハンも重要な女性クリエイターの筆頭であるが、ここでは若手のフラハイヴとメンチを推す。

リズ・フラハイヴ&カーリー・メンチ
リズ・フラハイヴ&カーリー・メンチ

 「GLOW」もまた、決して褒められるようなものではない女性キャラクターの集まりだ。作品のベースには現代に通じるフェミニズムや人種差別問題等々が散りばめられており、今の時代ならセクハラでアウト連発の監督サム(マーク・マロン)の視点も示唆に富んでいる。だが、それ以上に、本作の登場人物は全員が個性的で生き生きと躍動しており、どうにも応援せずにはいられない魅力がある。今年6月に配信されたシーズン2は、前作をしのぐほどの出来で、マドンナの「クレイジー・フォー・ユー」がかかるシーンでは、まさかこのドラマで、これほどロマンティックな気分を味わえるとは……! と感動を覚えたほど。既にシーズン3の制作も決定済みの本作は、メッセージ性を強く打ち出しすぎず、1980年代という時代背景をうまく使って娯楽としてバランスが取れた作風に作り手の工夫と感性が光る。

「GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング」シーズン2までNetflixで独占配信中

「Weeds ~ママの秘密」シーズン8までNetflix、シーズン4までAmazon Prime VideodTVで配信中  

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マーティ・ノクソン「KIZU-傷-」「ダイエットランド」ほか

KIZU
「KIZU-傷-」(C)2018 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

 原作は「ゴーン・ガール」の原作者ギリアン・フリンのデビュー作「KIZU-傷-」、オスカー常連のエイミー・アダムス主演、そして全話の監督はジャン=マルク・ヴァレ。HBOの話題の新作「KIZU-傷-」(原題は「Sharp Objects」)のクリエイター、マーティ・ノクソンは、既に確固としたキャリアを持つが、近年はゴリゴリと過激なフェミニズムを前面に押し出す作風が際立つ。

KIZU
「KIZU-傷-」(C)2018 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

 特にケーブル局AMCの新作「ダイエットランド」は、とても奇妙でチャレンジングな意欲作だ。太っていることを気に病む主人公、ひたすら外見を磨き上げて男社会を生き抜いてきた女性誌の編集長、そしてフェミニストのカルト集団に過激派のフェミニスト武闘集団が存在する世界。ノクソンが描くフェミニズムはヤワじゃない。日本ではさっぱり盛り上がらない#metoo運動もしかり。だが、女性がいくら声をあげても聞いてもらえないなら、行動に訴えるしかないという絶望感はアメリカも同じのなのか。その先には何があるのか? ノクソンの見解によれば、必然的に“テロリスト”の誕生となる。このユニークで辛辣なテーマの突き詰め方は、「アメリカン・ホラー・ストーリー:カルト」にも似ている。

ダイエットランド
「ダイエットランド」(C)AMC / Photofest / ゲッティ イメージズ

 ノクソンはシリ・アップルビー主演の「UnREAL」(2015~2018)のクリエイターでもある(ショウランナーとしてはシーズン1&2)。リアリティー番組「バチェラー」の業界内幕ものであるが、同時に番組のプロデューサーであるレイチェルを史上最低のフェミニストとして描いている。番組のためなら非情な手段もいとわず、仕事のために女を使い、人の気持ちを踏みにじる。対比として権力を持つ男性の番組オーナーらが登場するのだが、レイチェルがやっていることは、まさに彼らの行動の写し鏡のよう。テレビ業界でサバイブするべく“男性と同等”に振る舞うレイチェルが、内側から病んでいく姿に、人は何を思うのか。同種のテーマは「SEX AND THE CITY」(1998~2003・本質的にはおしゃれなキラキラドラマではない)でも描かれているのだが、現代のフェミニストのあり方への探求はノクソンのライフワークとなるのだろうか?

UnREAL
「UnREAL」(C)Lifetime Television / Photofest / ゲッティ イメージズ

 「KIZU-傷-」の原作は、「ゴーン・ガール」よりもはるかに著者フリンによる男性社会や男性そのものに対する恨み節に満ちている。「KIZU-傷-」を読むと、フリンが女性であることに、どれほどの苦しみと痛みを感じているのかと思わずにはいられない。ドラマでは原作通り、毒母と壊れた娘のむわっとした息苦しくなるような関係性が、陰鬱な殺人事件の顛末とともに描かれる。この題材に対するノクソンの采配は、本作の大きな見どころの一つだろう。

KIZU
左から「KIZU-傷-」原作者のギリアン・フリン、エイミー・アダムス、パトリシア・クラークソン、企画・製作総指揮のマーティ・ノクソン Photo by Christopher Polk/Getty Images

「KIZU-傷-」は 10月15日より毎週月曜よる11:00ほかBS10スターチャンネルにて独占初放送(全8話・10月13日よる11:45~第1話先行無料放送)

「ダイエットランド」シーズン1 Amazon Prime Videoで配信中

「UnREAL」シーズン2まで Amazon Prime VideohuluRakutenTVで配信中

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フィービー・ウォーラー=ブリッジ「Fleabagフリーバッグ」「クラッシング」ほか

フリーバッグ
「Fleabagフリーバッグ」

 イギリスからアメリカに殴り込みをかけるかのような、振り切れた個性を発揮するフィービー・ウォーラー=ブリッジには驚かされた。「Fleabagフリーバッグ」(2016~)のクリエイターであるフィービーは、女優で劇作家、脚本家、監督と多彩な肩書きを持つ。最近では『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』のドロイド「L3-37」をモーション・キャプチャーで演じたことでも知られる。

 「フリーバッグ」の主人公フリーバッグ(薄汚く不快な人や動物を指す俗語)は性欲旺盛で男にだらしなく、下品で下ネタが大好き。やることなすこと、とにかくゲスい。本作は2013年のフィービーの一人芝居を基にしているが、アメリカのドラマにおいて2000年代以降、アンチ・ヒロイン像は急速に進化したけれど、一足飛びにここまでの“クズ”が登場するとは! 作品の好き嫌いは激しく分かれるだろうが、「なんだかすごいなあ」と思わずにはいられないエネルギーにあふれている。シーズン2は2019年に予定されているようだ。

クラッシング
「クラッシング」

 「フリーバッグ」は2016年7月にBBC Threeでプレミア放送を迎え、Amazonにピックアップされた。同年1月には、英チャンネル4で脚本・製作・主演を務めた「クラッシング」が放送開始となった。「クラッシング」は格安の家賃で使われなくなった病院でシェアハウス的に暮らす20代の若者たちを描いた青春コメディー。といっても、ある種の変態趣味がフィービーの持ち味だから、さわやかで愉快なコメディーであるわけがない。笑えることは確かだが、最初からフィービーふんするルルの狂ったキャラクターに、にやにやしながらもドン引き。酔いつぶれて、床にぶちまけたカレーまみれになりながらも男を引っ掛けようとするシーンには、うげーとなった。ぶっ飛び過ぎてて、ついていけない人もいるだろう。それぐらいフィービーの個性は突き抜けている。

フィービー・ウォーラー=ブリッジ
『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』の女性ロボット L3-37でも注目を浴びたフィービー・ウォーラー=ブリッジ Photo by George Pimentel/WireImage/Getty Images

 その変態趣味が、ものすごくこなれた形で昇華しているのがスマッシュヒットとなった新作「キリング・イヴ(原題)/Killing Eve」だ。エミー賞ではフィービーは脚本賞の候補になっているが、サンドラ・オーがアジア系女優として初のエミー賞ドラマシリーズ部門の主演女優賞にノミネートされていることが、大きな話題となっている。本作はルーク・ジェニングスによる小説を基にした、一風変わった、というかかなり奇妙なスパイドラマで、MI5に所属するイヴ(オー)と雇われ暗殺者ヴィラネル(ジョディ・カマー)が火花を散らす。この二人の女性キャラクターのアクの強さ、個性こそが、本作の最大の魅力だ。「グレイズ・アナトミー」のオーが芸達者であることは海外ドラマファンなら知るところだが、対する「女医フォスター」のジョディ・カマーのキレっぷりも、なかなかのもの。フィービーによるこってりと濃い味付けの女性たちが、奇妙に絡み合うガチの演技合戦(変人合戦)は、これぞ女優のための作品と言えるかもしれない。ベースにあるのはフィービー流のフェミニズム。でも、そんなことはどうでもいいよと言わんばかりに、フィービーが描く女性像は気持ちがいいほど常識にとらわれず、振り切れている。

「Fleabagフリーバッグ」Amazon Prime Videoで独占配信中
「クラッシング」Netflixで独占配信中

今祥枝(いま・さちえ)映画・海外ドラマライター。「小説すばる」「日経エンタテインメント!」「BAILA」などで連載。作品のセレクトは5点満点で3点以上が目安にしています。Twitter @SachieIma

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