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アカデミー賞作品賞候補8作品スゴイのはココ!<前編>

第91回アカデミー賞

女王陛下のお気に入り
最多10ノミネート『女王陛下のお気に入り』 - (C) 2018 Twentieth Century Fox

 現地時間1月22日、第91回アカデミー賞のノミネーションが発表されました。注目ポイント多数のオスカーですが、中でも作品賞は映画ファンなら見逃せない秀作ぞろい! 作品賞候補作のどこがスゴいのかを取り上げる「スゴイのはココ!」の前編では、日本公開前の4作を先取りでご紹介します。(編集部・市川遥)

美しくもドロッドロな女たちのバトル『女王陛下のお気に入り』

 『籠の中の乙女』『ロブスター』など不条理でブラックユーモア満載の作品を撮り続けているギリシャ人監督ヨルゴス・ランティモスが今回描いたのは、18世紀初頭のイングランド王室を舞台にした女性たちのドロッドロなバトル。権力、美貌、肉体、知性と持てる全てを使った駆け引き、そして張り巡らされた謀略に「次はどんな汚い手を!?」と夢中にさせ、意外にも深く考えさせられるラストは反すうしたくなる味わい深さです。この時代、国を動かしていたのが3人の腹に一物ある女性だったというのも興味深い点。

怖ッ!鬼気迫る3人の女優たちの演技合戦→痛風に苦しむ子供っぽい女王役のオリヴィア・コールマン、女王を操るかっこいい幼なじみ役のレイチェル・ワイズ、純真そうでめちゃくちゃしたたかな侍女役のエマ・ストーンと3人の女優たちがとにかく輝いており、3人そろってのオスカーノミネートも納得です。女王の寵愛を巡って争うレイチェル&エマの演技も戦慄ものですが、オリヴィアがとび抜けてすごい。操られるだけの孤独な女王かと思いきや、ふいに顔をのぞかせる権力の使い方を知り尽くした狡猾さにはゾッ。

ずっと見ていたい!格調高き衣装と美術→3度のオスカーに輝く衣装デザイナー、サンディ・パウエル(『キャロル』『シンデレラ』なども)が手掛けた時代物のドレスは目を見張るほど美しく、格調高きセットともぴったり。共に豪華絢爛でありながら色調は抑えられており、自然光で陰影を効かせた撮影で映えまくり。カメラは自在に視点を変えて、衣装、美術、そしてその構図で登場人物の内面まで饒舌に語っており、これこそ映画の醍醐味といえるでしょう。

女王陛下のお気に入り』(日本公開2月15日)
監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:オリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ
上映時間:2時間
配給:20世紀フォックス映画
第91回アカデミー賞最多10ノミネート:作品賞、監督賞、主演女優賞(オリヴィア・コールマン)、助演女優賞×2(エマ・ストーン&レイチェル・ワイズ)、脚本賞、撮影賞、美術賞、編集賞、衣装デザイン賞

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シニカルに暴かれるアメリカ政治の裏側に戦慄『バイス』

 アメリカで史上最高の権力を握った副大統領ディック・チェイニーの半生を軸に、彼が暗躍したジョージ・W・ブッシュ政権下で何が起きていたのか、それがどう世界を一変させ、後戻りできないほどにしてしまったのか、芸達者な俳優陣の演技で政治の裏側をひたすらシニカルに暴いていく本作。理念はなく権力だけを求める政治家をトップにしてしまうことの恐ろしさを描きながらも、エキサイティングで一時も目が離せません。

もはや誰?激変しすぎなクリスチャン・ベイル→もともと全く似ていないチェイニーに成り切るため、20キロ増量して髪を剃って眉毛を脱色し、自分を一切消し去ったクリスチャン・ベイルの役者魂、あっぱれ! 『マネー・ショート 華麗なる大逆転』でも組んだアダム・マッケイ監督ならではの“笑い”が成立しているのは、彼が身も心もチェイニーとして忠実に演じているからに他なりません。ノミネートこそ逃したものの、チェイニーの進む道を決定付けたドナルド・ラムズフェルド役のスティーヴ・カレルも、かなりいい味を出しています。

すさまじい情報量、なのにエキサイティング!→リーマンショックの裏側を描いた『マネー・ショート 華麗なる大逆転』でアカデミー賞脚色賞を受賞したマッケイ監督は、原作ナシの本作でさらに進化しています。チェイニーの20代から70代と、政治の裏側という圧倒的な情報量の物語を、それが現在にどうつながっているのか紐づけながら描いた抜群の構成力に感服。

バイス』(日本公開4月5日)
監督・脚本:アダム・マッケイ
出演:クリスチャン・ベイル、エイミー・アダムス、スティーヴ・カレル、サム・ロックウェル
上映時間:2時間12分
配給:ロングライド
第91回アカデミー賞8部門ノミネート:作品賞、監督賞、主演男優賞(クリスチャン・ベイル)、助演男優賞(サム・ロックウェル)、助演女優賞(エイミー・アダムス)、脚本賞、編集賞、メイク・ヘアスタイリング賞

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鑑賞後はすごい爽快感!凸凹バディロードムービー『グリーンブック』

 グリーンブックとは、黒人を排斥しない宿などが記載されている人種差別時代の黒人用旅行ガイドブックのこと。本作はそんなグリーンブックを頼りにアメリカ南部での演奏ツアーに出た黒人ピアニストのドクター・シャーリーと、彼に雇われたイタリア系の運転手トニー・リップの実話を基にしたバディムービーで、『メリーに首ったけ』でおなじみピーター・ファレリー監督初の感動作です。

ヴィゴ・モーテンセンマハーシャラ・アリの名コンビ!→無学で腕っぷしが強いトニー・リップと、洗練されたピアニストのドクター・シャーリーという異なる世界に住む二人が、一緒に旅をする過程で心を通わせていく姿がアツい! ヴィゴは黒人への差別意識を持っていたもののドクターとの出会いで多くを学び、情に厚くて意外に繊細なところもあるトニーを好演。『ムーンライト』でオスカーに輝いたマハーシャラが体現した黒人・白人どちらの世界にも属せないドクターの苦しみも、胸に迫ります。凸凹コンビを演じた二人の相性が素晴らしく、笑って泣いて、気付けばこの二人が大好きになっているはず。

幸せな気持ちにさせる名脚本→大きなテーマとして人種差別の問題がありながら、ここまでフィールグッドな作品にした脚本もお見事。脚本家の一人であるニック・ヴァレロンガはトニー・リップの実の息子で、父とドクター・シャーリーの旅の話を何度も聞きながら成長し、実際に二人にインタビューした内容を基に、この実話に心底ほれ込んだファレリーたちと脚本を執筆しました。それだけに、トニーとドクターの真実が刻まれた脚本に。旅の過程で二人が経験する事件やちょっとした出来事をうまく積み重ね、心を温かくするラストへ自然に畳み掛けていき、鑑賞後にはとてつもない爽快感が訪れます。

グリーンブック』(日本公開3月1日)
監督・脚本:ピーター・ファレリー
出演:ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ
上映時間:2時間10分
配給:ギャガ
第91回アカデミー賞5部門ノミネート:作品賞、主演男優賞(ヴィゴ・モーテンセン)、助演男優賞(マハーシャラ・アリ)、脚本賞、編集賞

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抜群のエンタメ性!白人至上主義団体に潜入する黒人刑事を描いた『ブラック・クランズマン』

 黒人刑事が白人至上主義団体クー・クラックス・クラン(KKK)に潜入した……というまさかの実話を、軽妙な掛け合いで笑わせながらパワフルに描いたドラマ。電話口で“黒人の英語”と“白人(至上主義者)の英語”を巧みに使い分け、そのあまりにリアルな白人至上主義者ぶりにKKK内でどんどんのし上がっていく黒人刑事には、デンゼル・ワシントンの息子であるジョン・デヴィッド・ワシントンがふんしています。

作品賞候補で一番笑える!キャストの掛け合いが絶品→主人公ストールワースの相棒となる白人刑事、ジマーマンを演じたのが、『スター・ウォーズ』シリーズの悪役カイロ・レン役で知られるアダム・ドライヴァーです。対面すればさすがに黒人だとバレてしまうので、電話はストールワース、実際に会うのはジマーマンと役割を決め、二人一役でKKKに潜入することになるのですが、この二人のひょうひょうとした掛け合いがもう最高! ジマーマンは白人は白人でもKKKが差別しているユダヤ人である点も笑いを生んでおり、社会派のメッセージを伝えるのにユーモアはこんなにも有効なのだと再認識させられます。

祝・監督賞初ノミネート!スパイク・リー監督→『ドゥ・ザ・ライト・シング』や『マルコムX』などで人種問題に鋭く切り込んできたリー監督は、意外にも今回がオスカー監督賞初ノミネートです。舞台は1970年代ですが、リー監督いわく「歴史物を現代とつなげることがストーリーテラーの仕事」。本作でもユーモアにくるみつつもトランプ大統領の発言を想起させるセリフをうまい具合にちりばめ、ここで描かれているのはまさに今起きていることなのだと痛感させるあたりはさすがの手腕です。

ブラック・クランズマン』(日本公開3月22日)
監督・脚本:スパイク・リー
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライヴァー
上映時間:2時間15分
配給:パルコ
第91回アカデミー賞6部門ノミネート:作品賞、監督賞、助演男優賞(アダム・ドライヴァー)、脚色賞、編集賞、作曲賞

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