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切迫!狭い地下庫に身を隠した4人の女性を通してルワンダ虐殺を描く『平和の木々』

厳選オンライン映画

賛否含めて論じる注目の7作品 連載第5回(全7回)

 日本未公開作や配信オリジナル映画、これまでに観る機会が少なかった貴重な作品など、オンラインで鑑賞できる映画の幅が広がっている。この記事では数多くのオンライン映画から、質の良いおススメ作品を独自の視点でセレクト。各ライターが賛否含めて論じる注目の7選として、毎日1作品のレビューをお送りする。

※ご注意 なおこのコンテンツは『平和の木々』について、ネタバレが含まれる内容となります。ご注意ください。

平和の木々
Netflix映画『平和の木々』は独占配信中

『平和の木々』Netflix
上映時間:98分
監督:アラナ・ブラウン
出演:エリアンヌ・ウムヒレシャーメイン・ビングワほか

 1994年に起きたルワンダ虐殺は、いまも多くの人々の心に深く刻まれている出来事だろう。ツチ族とフツ族間の緊張が高まって勃発したルワンダ紛争の最中、多くのツチ族と穏健派のフツ族が殺されたのだから。犠牲者は50万人から100万人にも及ぶとされているが、さまざまな研究を経てもはっきりとした数は判明していない。

 そんなルワンダ虐殺をテーマにした作品がいくつも作られていることは、映画ファンなら周知のはずだ。なかでもドン・チードルソフィー・オコネドーが主演を務めた『ホテル。ルワンダ』(2004)は批評家たちから称賛され、さまざまな賞も獲得するなど、広く知られている作品だと思う。この映画をきっかけに、ルワンダ虐殺のことを知ったという人もいるのではないだろうか。また、虐殺発生時ルワンダにいたBBCニュースのデヴィッド・ベルトンの経験を基にしたルワンダの涙』(2005)も、現地で渦巻いていた狂気と登場人物のキャラクターを丁寧に描いた秀作だ。

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平和の木々
Netflix映画『平和の木々』は独占配信中

 こうした作品群に、またひとつ新たな映画が加わった。『平和の木々』と名付けられたその作品は、今年6月10日にNetflixで配信されると、英語映画のグローバルチャートでトップ10入りを果たし、大きな注目を集めた。監督を務めたアラナ・ブラウンの長編デビュー作であり、さらには低予算のインディーズ作品で大々的なプロモーションもなかったことを踏まえると、快挙と言っていいだろう。

 本作のストーリーはとてもシンプルだ。穏健派フツ族のアニック(エリアンヌ・ウムヒレ)、ツチ族のムテシ(ボラ・コリオショ)、修道女のジャネット(シャーメイン・ビングワ)、ボランティアでルワンダにやってきたアメリカ人のペイトン(エラ・キャノン)は、ルワンダ虐殺の混乱から逃れるため地下の狭い食糧庫に身を隠した。「事態がよくなるまで1日くらい安全に過ごせる」とアニックが言うように、4人は虐殺が収まればすぐにでも地上に出ようと考えていた。しかし、虐殺は予想以上に長引き、食糧庫から出られない日々が続いた。そのなかで4人は心身ともに疲弊しながらも、励まし合って生き抜こうとする

平和の木々
Netflix映画『平和の木々』は独占配信中

 ほとんどの出来事が食糧庫で起こる本作は、終始ヒリヒリとした切迫感を漂わせる。日が経つごとに憔悴(しょうすい)していく4人の姿はリアリティーを醸し、観ているほうも真綿で首を絞められるような息苦しさを感じる。

 この切迫感を生みだすうえで、重要な役割を担っているのが多彩なカメラワークだ。なかでも、食糧庫に隠れて2日目の序盤で4人をそれぞれ真正面から撮り、キャラクターの情動を強調する手法はうまいと感じた。筆者からすると、そうした手法はバリー・ジェンキンス監督を思わせる。『ビール・ストリートの恋人たち』(2018)における、留置所の面会室でティッシュ(キキ・レイン)とファニー(ステファン・ジェームズ)がガラス越しに会話をする場面や、ドラマ「親愛なる白人様」シーズン1の第5話のラストシーンなど、ジェンキンスは監督作で登場人物の情動を伝える際に真正面から撮ることが多い。

平和の木々
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 見ず知らずの4人が徐々につながりを強めていく流れも本作の見どころだ。それぞれ背景が違っても、流産や性暴力といった苦しみを共有することで親密感が高まっていく様は、女性の連帯という点から見て魅力的に映るだろう。

 このような側面が強いのは、ブラウン監督の歩みが深く関係していると思われる。かつてブラウンは、ルワンダ虐殺を生き延びた女性たちをサポートする支援者にインタビューしたことがあり、その経験が本作を作るうえでインスピレーションになったと Below the Line で語っている。また、同インタビュー内では、『ホテル。ルワンダ』を褒めつつ、女性側の話が語られていないと感じたことも述べている。こういった思いがあったからこそ、本作でブラウンは4人の女性を通して、ルワンダ虐殺を描いたのだろう。

平和の木々
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 『平和の木々』は、また1人映画界に素晴らしい才能を持った監督が登場したと告げる良作だ。アイデアの豊かさとそれを実現させるための高い制作技術が随所でうかがえるだけでなく、女性の連帯というルワンダ虐殺の背景を知らない人が楽しめる側面もある。そうした観客を選ばない懐の深さを長編デビュー作で示したブラウンの将来が楽しみだ。(文・近藤真弥、編集協力・今祥枝)

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