衝撃のドキュメンタリー『市川崑物語』の岩井俊二監督に独占インタビュー
映像の世界に常に新しい旋風を巻き起こしながら、挑戦をし続けている岩井俊二監督。『Love Letter』『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』などの名作を生み出してきた彼の新作はドキュメンタリー。しかも今年で91歳になった市川崑のこれまでの人生を振り返り、敬愛を込めて描いた渾身の作だ。常に新しいことに挑み続けている岩井俊二だけに世にいう普通のドキュメンタリーフィルムではない。いままでに観たこともない衝撃のドキュメンタリーをこの世に生み出した。そのいきさつと市川監督に対する思いを語ってもらった。
Q:市川さんという人のキャラクターをどうとらえてこの作品を作りましたか?
巨匠なのに、巨匠の感じがしない人です。リアルタイムで生きている人というか。瞬間を生きている人っていうのかな……自分はずっと映画界でやってきたんだという雰囲気を漂わせない方ですよね。初めてお会いしたときから、威圧感がまったくないんですよ。「今、きみとボクが会ってる」……それだけでものごとが進んでいくような人なんです。
だからとても話やすいんです。それは最初おどろきでしたね。直接話をしていると、いろいろなことを教えてもらうのですが、市川さんは教える……というような話し方はしない人なんです。ただ……それは表現しにくいですね。当然市川さんのこのキャリアを説明すると本当に巨匠ですごい人なわけなので……たとえると……金田一耕助みたいな人なんですね。
大量の推理をしているんだけどあんまりほかの事件のこととかひけらかしたりしないというか。いまやっていることに集中している人なんですね。“ちゃっかりしている”人ではないんですが、そんな風にふるまったりするんです。自分が失敗したりしたことをみんなに話して喜ばせるような人なんですね。映画の失敗談はいっぱい聞きましたね。
以前から、そして今でもずっとそうやって生きてきている人なので、どこを切り取っても同じ感じの方なんです。
Q:新作の『犬神家の一族』はご覧になりました? 前作とくらべてどうでした。
ほぼ同じで……まったく変わっていないというか……。違う見極めをする必要のない映画なのかなと。これもまた新しいことだと思いました。「原点回帰」じゃないですけど。こういう形でのリメイクっていうか、こういうことってあってよかったんだと思いましたね。
ホッとしますね。物語って語り継がれるものだとしたら何度も繰り返されるべきで、そうじゃなくなっていますよね今は。音楽も消費文化的で時代が過ぎても何も起こらないような、そんな風になっていっているように感じるので。
『犬神家の一族』は30年ぶりの映画化ですが歴史的な財産っていうのはそういう風に変わらないものであっていいはずだと思います。文化遺産的なものに近いのかな(笑)。ファンからすればディティールまでアタマに入ってるので細かいこと比べたりしますけどね。役者さんのトーンの違いを楽しむとか、アングルとかカットとかちょっと違う。猿蔵が飛び込むシーンとか飛び込み方が微妙にちがったりとかね。
岩井監督の言葉の端々から、市川監督に対する深い尊敬と愛情を感じ取ることができた。しかし、『市川崑物語』の本編を観れば、さらにそれ以上の岩井俊二の思いを感じ取ることができる。91歳の老人のドキュメンタリーなどとあなどってはいけない。岩井監督によって作り出された市川崑ストーリーは、その古びたフィルムでさえも洗練された輝きを放ち90分間観るものを引き付けて離さない。ぜひ劇場で確認してほしい。
『市川崑物語』は新宿ガーデンシネマ12月9日にて公開。
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