北野武、黒沢清の教え子、スペインでデビュー!評価は辛口【第56回サン・セバスチャン国際映画祭】
黒沢清&北野武の教え子が、「第56回サン・セバスチャン国際映画祭」で華々しくデビューした。東京藝術大学大学院映像研究科 第二期生の濱口竜介監督映画『PASSION』が同映画祭新人コンペ部門「Zabaltegi-New Directors」に選ばれて、現地時間24日と25日に上映された。濱口監督は「初めての海外でこんな素晴らしい街に来られ、コンペにまで選んでいただき本当に光栄です」と喜びを噛みしめた。
濱口監督は1978年生まれの29歳。東京大学卒業後、同大出身・井坂聡監督の助監督を経て東京藝大大学院に入学した。「映画が撮りたくて助監督に就いたんですけど、ちょうどその時に東京藝大の映像研究科が新設され、北野さんが教授を務めるとすごく話題になった。国立の映画学校なんて何か違うんだろうなという期待もあって第一期に応募したんですけど落ちて。翌年にまた受賞して受かったんです。ただ僕たちの代は黒沢監督とのつながりの方が深くて。この映画祭でも(『トウキョウソナタ』が招待上映された)黒沢監督とご一緒して、魚介類をご馳走になりました」。映画『PASSION』は同大の卒業制作作品。
カホ(河井青葉)とトモヤ(岡本竜汰)の結婚宣言が、カホに思いを寄せていたケンイチロウ(岡部尚)ら友人たちの心に揺れ動かし、次第に彼らの中で抑えていた複雑な恋愛感情が顕わになっていく。「僕と同じ30歳を手前にした男女たちの、それぞれ一方通行の恋を描きたかった。映画『ハチミツとクローバー』とかを参考にしました」。
プロの役者たちを起用し、リハーサルに1週間をかけ、12日間で撮影を行った。「脚本を読んだタカコ役の占部房子さんには『あなたの頭の中の女性なんじゃないですか。現実の女性はこういう事を言わない』と指摘されたこともありました。でも自分で書いた本なのでそう直せず、役者さんが自分で本当にこれでいいんだと思えるようにやっていただこうと、そこを調整し合いながら撮りましたね」
情熱の国・スペインの人たちには、素直に愛を伝えられない日本人の心情を理解するのは難しいようで、映画祭会場で連日発表される観客の採点は厳しく、『PASSION』は10点満点中、平均5.9点(24日現在)となっている。「世間はなかなか厳しいものだなぁと(苦笑)。でもこの映画祭の観客はお金を払って見に来ていく人がほとんどなので、そりゃ文句も言いたくなりますよね。でも黒沢監督からは“街”が良かった』と一応、誉めて頂きました」。 しかしすでに濱口監督に対する注目度は映画関係者の間で高まっており、同作品は、アジアの気鋭作家の作品を集めた「第9回東京フィルメックス映画祭」(11月22日~30日)のコンペティション部門に出品されることも決まった。(取材・文:中山治美)