先住民vs. 石油大手シェブロン!16年も続く環境裁判を追ったドキュメンタリーが完成!
ドキュメンタリー映画『メタリカ:真実の瞬間』のジョー・バーリンジャー監督が、環境問題に取り組んだ新作『Crude』(原題)について語ってくれた。
本作は、エクアドルの熱帯森林に住むコファン族を含めた約3万人の先住民が、石油大手シェブロンに対して大訴訟を引き起こした事件を追うドキュメンタリー作品。シェブロンが原油を破棄し続け、住民の間でガンの発病を増加させたことが訴訟の理由で、エクアドルの環境専門家は、環境破壊の代償として被告側に270億ドルの損害賠償を支払うべきと主張している。
『メタリカ:真実の瞬間』を製作したジョー監督に対して、環境問題を扱うスティーブン・ドンジガー弁護士が、この訴訟事件をドキュメンタリーとして追ってほしいとアプローチしてきたとき、ジョー監督は乗り気ではなかったという。「あの『メタリカ:真実の瞬間』以外の僕の作品は、社会的な問題を扱っていたし、僕には環境問題というテーマは適していないように思えた。それに依頼を受けた段階で、すでに13年以上も裁判が続けられていたんだよ。その段階で出遅れた感はあったよね」と当時を振り返る。しかしその否定的な思いは現地を視察してみて変わった。「コファン族の人たちはすぐ目の前に川があるのにもかかわらず、ツナ缶を食べていた。なぜならその川の魚は汚染されていて食べることなんてできなかったからね。住む場所を汚染された彼らの現状を目の当たりにして、背を向けるなんて僕にはできなかった」とジョー監督は語る。
驚くべきは、被告側であるシェブロンの社員にインタビューを行っている点。「彼らを説得してインタビューするまで、実に1年半かかったんだ。両サイドから証言を得ることは、本作にとって極めて重要だった。通常のドキュメンタリーだと、作り手が主張したいことを一方的に伝えようとするため、観客はメッセージを押し付けられている形になるよね。僕は両サイドに取材をして説得力を持たせ、結論は観客に委ねたいと思ったんだよ。ただシェブロンの社員をコファン族の住む現地まで来させて、現状を見てもらうことができなかったのが残念だったよ」と述べるジョー監督は、サンダンス映画祭の出品期限ギリギリまで、インタビューを行っていたという。
実際の撮影は危険との隣り合わせだったとジョー監督は回想する。「ジャングルで撮影していたときは、誰にも名前を告げなかったんだ。あくまで、ローカルのニュース・メディアの一員としてカメラを回していたんだよ。なぜならコロンビアとの国境付近にはゲリラ組織がウジャウジャいるんだ。シェブロンがゲリラを味方につけて、誘拐や殺人などがあってもジャングルではわからないからね! シェブロン訴訟とは別に、個人的に訴訟を起こした人が失踪した事件もあるくらいだから……」。
またジョー監督は、「シェブロンは、ありとあらゆるトリックを使って裁判を延長させてきた。なぜなら原告が延長できるほどの金額を持ち合わせていないからさ。今ではエクアドルの環境専門家が、環境破壊の代償として、270億ドルの損害賠償を支払うべきと指摘しているが、もともとそれほどの金を支払える会社だから、優秀な弁護士に広報、私的政治活動を行うロビイストもいるだろう。ただ、彼らが予測できなかったことは、現地エクアドルのパブロ・ファハード弁護士の存在とラファエル・コレアの大統領就任、そしてわれわれ一般人の環境に対する認識が高まったこと。これがシェブロンにとって大きな痛手となったのは明らかだね」と長期間にわたる裁判について説明する。この裁判は、訴訟が起こされてから現在で16年も続いているが、世間では一般的に認知されていないのが現状だ。(取材・文:細木信宏 / Nobuhiro Hosoki)