推定価格2兆2,500億の美術品を持つバーンズ美術館の存続危機を描いたドキュメンタリー
現在開催されているニューヨーク映画祭(N.Y.F.F 47th)に、ロック学校に入学した子供たちに迫ったドキュメンタリー映画『ロック・スクールl』(原題)を描いたドン・アーゴットが、新作『ジ・アート・オブ・スチール』(原題)について、エグゼクティブ・プロデューサーのレニー・フェインバーグとプロデューサーのシーナ・M・ジョイスとともに語った。
同作は、新薬の特許で巨額の富を得たフィラデルフィアの大富豪アルバート・C・バーンズが、前衛の印象派の絵を集め、自らバーンズ・ファウンデーション(美術館)を1922年に設立する。当時の絵画界からは散々な不評を受けた作品群には、ルノワール(181点)、セザンヌ(69点)、マチス(59点)、ピカソ(46点)、ゴッホ(7点)などが含まれていた。今では、推定評価額250億ドル(2兆2500億円)の価値があるとされる作品を持つこの美術館が、その存続の危機にさらされていた事実を、美術館の歴史と振り返りながら描いたドキュメンタリー作品。
エグゼクティブ・プロデューサーのレニー・フェインバーグは「長い間、時間を掛けて、このバーンズ・ファウンデーションをリサーチしていたんだ。ようやく映画ができる情報が集まったときに、監督のドン・アーゴットとプロデューサーのシーナ・M・ジョイスに依頼をした」ときっかけを語った。
世界各国から訪れる人たちが多いこの美術館だが、その周辺は富豪が住む住宅街なため、不法投棄や騒音の問題が生じている「隣人は長年、そこに美術館があるのを快く思っていなかった。ただ、そのローカルな問題よりも、グローバルな見識で観て欲しい」とドン監督が述べたが、その一方で気難しい人物だったアルバート・C・バーンズは敵も多く、隣人からもあまり好かれていなかった。
そしてアルバート・C・バーンズの死後、内部の不正行為や館内の改築、法的費用が重なり経営難に陥って、破産寸前の危機が訪れる。
その当時のアルバート・C・バーンズの遺言には「一点たりとも貸し出し、複製、売却することを禁ずる」とされていたが、後にフィラデルフィア州裁判所が、遺言の一部破棄を命じて以来、厳選され予約したものだけを1日100人のみ、土、日は50人だけに、この美術館を公開することになった。
その素晴らしい作品群のあるこの美術館が海外で公開されたのは、バーンズ美術館の改装中に、日本の国立西洋美術館で80点の絵画が公開され、110万人が来場したことがある。
現在、このバーンズ・ファウンデーションは、ベンジャミン・フランクリン・パークウェーイに移動予定で、その建設が今年の秋から行われ、2011年の冬までに完成予定らしい。(取材・文:細木信宏 Nobuhiro Hosoki)