キーラ・ナイトレイの初舞台が観客から大絶賛!激しさと美しさを絶妙に表現
12月5日、ロンドン、ウエストエンドのコメディ・シアターで公演が始まった「人間嫌い」。モリエールの名作喜劇を、現代のロンドンに置き換えて展開する野心作だが、キーラ・ナイトレイがヒロイン役で初舞台を踏むとあって、連日満席という注目を集めている。そして彼女の演技は、舞台にうるさいロンドンっ子からも絶賛を集めるという好結果になった。
キーラが演じるヒロインのジェニファーは、「セレブ」を絵に描いたような22歳のアメリカ人女優。主人公のアルセストと惹かれ合いながらも、軽薄で傲慢だと批判される難しい役どころだ。キーラの最初の登場場面は、バスルームからの“声”。その直後にステージに姿を現した彼女は、アルセスト役のダミアン・ルイスはもちろん、客席全体をとりこにするような、激しさと美しさの両面を漂わせていた。若さゆえの世間知らず。いっぽうで、セレブとしてのプライドで恋する相手を翻弄(ほんろう)する。そんな抑制の利かないジェニファーを、嫌味なく演じていたのには正直、驚いた。
難点をいえば、他の共演者に比べ、キーラの声量が足りないところ。ただ、今回の場合、その声の弱さも“異端児”としての役に貢献しており、これはキーラのもつ強運かもしれない。クライマックスで彼女はドレス姿を披露するが、ほとんどの場面はシンプルなTシャツなどカジュアルな衣装で、些細なからだの動きも観客に丸わかりにもかかわらず、そのあたりへの配慮もしっかりみせていたキーラ。ただし、Tシャツ姿は彼女の“貧乳”を強調してしまい、ちょっとかわいそう、というのは余計な心配。いずれにしろ、ジュリア・ロバーツ、ニコール・キッドマンら映画のトップ女優が舞台に挑戦した最近のケースのなかでは、キーラが最もすぐれた成果をあげたことは間違いない。そして、これはビギナーズ・ラックでもなさそうだ。
気になる各メディアの批評は、デイリー・メール紙では「キーラは21世紀の映画界ではあこがれの存在だろうが、舞台では平凡の上、といった程度。鑑賞用には十分に魅力的だが、その完ぺきな顔にはあまり動きがない。映画女優には有利だろうが、舞台では欠点だ。大工に鈍いのみを与えるようなもの」と厳しい批評。デイリー・テレグラフ紙では、「最初のシーンでは少しためらいがちに見え、エネルギッシュさも存在感も欠けている。しかし後半になると、ひどい女の役柄を発揮してパワフルさと鋭さを出してくる。共演のダミアン・ルイスが演じる主人公がなぜキーラ演じる女優に惹かれてしまうのか、キーラのイタズラな誘惑とミステリアスな魅力に気付くだろう」となかなかの批評だった。またタイムズ紙では、「強情で自己中心的な表現はよくできていたが、その美しさ以外に、大衆を取り込む影響力はなかった。それは彼女の体があまりにも細いこと、そして声が不十分であることも理由だろう。もう少し舞台経験を踏めば落ち着きも出てくるだろう」と今後を期待する声も。さらにガーディアン紙では、「キーラがこの作品で成功するか? それが疑問だったが、この役をよく掘り下げて演じている。手持ちぶさたになってしまったときでも見事に演じきっていた」と好評なコメントが出ている。(斉藤博昭)