ハイチ大統領の独裁者ぶりを描く『モロク・トロピカル』でヒューマン・ライト・ワッチ映画祭が開幕
現地時間3月18日夜、ロンドンでヒューマン・ライト・ワッチ映画祭が開幕、オープニングを飾った映画『モロク・トロピカル』(原題)のラウル・ペック監督が質疑応答した。本作は、ハイチの文化相を務めた経験もあるペック監督が、ハイチを背景に描いた人間ドラマ。
ハイチ生まれ、コンゴ育ち、アメリカ、フランス、ドイツで教育を受けたペック監督は、ドラマとドキュメンタリーの両方で様々な映画賞を受賞してきた社会派監督だ。生贄を要求する神モロク(モレク、モロックとも呼ばれる)をタイトルにした本作、アレクサンドル・ソクーロフ監督がヒットラーの最後の日々を描いた映画『モレク神』からインスパイアされたというのは納得だが、韓国のイム・サンス監督が韓国のクーデターをコミカルに描き、物議をかもした映画『ユゴ 大統領有故』からの影響もあると、意外な事実も明かした。
本作の主人公であるハイチ大統領も、強大な権力をふりかざす、独裁者として描かれる。反面、権力の座に固執する弱い人間でもあり、支持を失い、孤立していく過程は、シェークスピア悲劇のようだ。フランスのベテラン俳優ジネディーヌ・スアレムが大統領を、ミス・フランスから女優に転進したソニア・ローランドがその妻を演じているほか、重要な役どころのメイド、大統領の母役などに配された新人たちも、ハイチのローカル感を出すのに功を奏している。
ハイチの独裁政権時代を背景にした本作だが、事実をそのまま描いたものではなく、「無制限の権力を描いた。それは民主主義をうたう国の指導者でも起こりうる」とペック監督は話す。主人公がハイチのことを言うセリフ「200年の不幸」(ハイチが独立してからの期間を指す)について、「あのセリフは失敗だったよ。その前の奴隷時代を入れるのを忘れた」と冗談めかして言うペック監督だが、「ハイチは我々の失敗であるだけでなく、支配してきた指導者たちの失敗でもある」とハイチの長い苦難の歴史を語った。
この1月の地震が空前の被害を及ぼしているハイチだが、地震からの再建が国としての再建につながることを願わずにはいられない。(取材・文:山口ゆかり / Yukari Yamaguchi)