射殺されたサッカーコロンビア代表のディフェンダーとコロンビアの麻薬王との意外な接点とは?
映画『JUNO/ジュノ』や『マイレージ、マイライフ』で名をはせたジェイソン・ライトマン監督が、映画館公開への手助けをしたドキュメンタリー作品『ザ・トゥー・エスコバルズ / The Two Escobers』(原題)について、共同監督ジェフ・ジンバリストとマイケル・ジンバリストらと共に語った。
同作は、コロンビアの麻薬組織間の抗争時代に悪名高い麻薬王として世界に君臨していたパブロ・エスコバルと、サッカー/コロンビア代表のディフェンダー、アンドレス・エスコバルの意外な接点を描いている。それは、麻薬王パブロが大のサッカーファンで、当時アトレティコ・ナシオナルというチームのオーナーでもあり、そのチームに所属していたのが、このアンドレス・エスコバルだった。さらにアンドレスが、ワールドカップで相手チームにオウンゴールを献上して、後にパブロと敵対する麻薬商の部下に射殺されてしまうというサッカー界最悪の事件が起きてしまう。そんな、全く関係ないように見えるこの2つの世界が複雑につながっているさまを、二人のエスコバルを通して見事に描いていく秀作だ。
この企画は、ESPN(アメリカのケーブルチャンネル)の「30 フォー 30」というスポーツと社会を扱ったドキュメンタリー番組から始まったそうだ。「ある友人が、コロンビア代表アンドレス・エスコバルの死について、あの夜に一体何が起きたのか、今も謎に包まれているという話をしてくれた。そこでまず、僕らはこの事件について調査をしたんだが、この事件を理解しようとするなら、当時のNarco-Football(麻薬商がサッカーチームのオーナーとして君臨していた時代)を把握しないと駄目だと思ったんだ。実はこの当時、かなりの大金が麻薬商であるサッカーチームのオーナーに流れ、プレイヤーを買収したり、審判を殺したりするとんでもない出来事があったんだよ」とマイケルは暗い過去について説明したが、一方「そんな状況下でも、真に強かったコロンビア代表チームが、ドラッグで腐敗したコロンビアのイメージを払拭しようと賢明に試合に望む姿と、それを信じて夢を抱く国民を描きたかったんだ」と実際の製作意図を述べた。
意外なのは、暗黒街のドンである麻薬王パブロ・エスコバルのインタビュー映像が映画内には、かなり含まれていることだ。この点についてジェフは「当時(80年代)のコロンビアでは、コカインはパーティー用のドラッグとして広く出回っていた。90年代にドラッグの抗争が起こる前までは、パブロが貧しいコロンビアの町の経済を、バーやレストランを繁盛させることで復興させていたんだよ。そして彼は、その活動を二人のアメリカ人のフィルムメーカーを呼んで、自分の別荘で撮影させていた。だから、その映像とその他にも、パブロの妹が保管している映像を含め、全部で54箇所から彼のアーカイブ映像を確保することができたんだ」と莫大なリサーチを行ったことを語り、さらにそれ以上に大変だったのが、その映像を放映できるレベルの映像に復元することだった、ということも付け加えた。
また麻薬王パブロ・エスコバルの右腕として知られる“ポパイ”と呼ばれる男に刑務所でインタビューしたことについて、ジェフは「ニューヨーク・タイムズ紙に載るようなゲリラや部隊の大佐などのインタビューなどをセットアップしてくれる女性を介して、刑務所で服役している“ポパイ”とのインタビューを行ったんだ。実は、彼の居た独房まで10箇所もチェック・ポイントがあり、身体のあっちこっちをチェックされたよ。彼と話しているうちに、この映画が面白くなると思ったが、彼は250人もの人を殺した殺人犯なんだと、ふっと我に返って脅威を感じたよ」と緊張の様子を明かした。映画は、あらゆるアングルからインタビューを試みていて、コロンビアの前大統領セザール・ガリビアも、当時の状況を語っている。
ストーリー構成と興味深い題材、それと信じられないようなアーカイブ映像の数を含め、同作はかなり良質のドキュメンタリー作品に仕上がっている。ちなみにジェイソン・ライトマン監督は、長編作品のように観られたうえに、字幕すらも全く意識しなかったほど素晴らしい作品だったとしている。(取材・文:細木信宏/Nobuhiro Hosoki)