大人たちを号泣させる天才クリエイター!劇場版『クレヨンしんちゃん』原恵一監督、「年中スランプみたいなもの」
25日、デジタルハリウッド大学・秋葉原メインキャンパスで、公開講座「大人も泣かせるアニメって?」が行われ、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』の原恵一監督が出席し、映画『カラフル』の制作秘話を披露した。
かつて所属していたシンエイ動画では、若くして「ドラえもん」「エスパー魔美」「クレヨンしんちゃん」といった作品の演出を手掛けるなど、天才クリエイターとして知る人ぞ知る存在だった原監督。しかし、彼の名前を一躍有名にしたのは、「大人も泣けるアニメ」という市場を生み出した『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』『河童のクゥと夏休み』といった劇場アニメだ。
原監督の最新作『カラフル』は、直木賞作家・森絵都のベストセラー小説をアニメーション化した感動作。突然現れた天使により、自殺してしまった少年の体に「ホームステイ」することになった主人公の心の旅を描き出している。常に新作が熱望されている原監督だが、本作の制作には3年かかったといい、前作『河童のクゥと夏休み』の制作にもやはり5年がかかったと作品一つ一つの制作にはかなりの時間がかかることを明かした。
中でも絵コンテに時間がかかるという原監督は、『カラフル』の絵コンテに1年以上の月日を費やしたと話す。「監督の仕事の中で絵コンテを描くことはとても重要なんです。よくできた原作なんで、いじらずに作るのが一番いいと思ったんですが、それでもせっかくアニメを作るんだったら、オリジナルの要素を入れたい。そういうのをどう付け足そうかと考えているうちに時が過ぎていくんです。まあ、ほとんどは僕が怠けているだけなんですが(笑)」と自虐的に創作のプロセスを語った。常々、天才と称される原監督だが、「いいアイデアが出ないとやめたいと思うし、机に向かうとため息が出るような気持ちになる。年中スランプみたいなものですから。悩むのはしょうがないし、絵コンテを描くことはそういう作業だと思う」と創作の苦悩も吐露した。
絵コンテが仕上がらないと作画スタッフも次の作業に進めない。結果としてスケジュールが圧迫されてしまい、「遅い!」というスタッフからのプレッシャーも相当なものらしいが、「だからといって時間がないから適当にというのは、できないですね。絵コンテがしっかりできれば大体自分の思ったような形になるんですが、手を抜いてしまうと、駄目な部分は後々まで残ってしまう。そうしたら取り戻せないんですよ」と力説した。
原監督の作品は、日常的な描写を繊細に積み重ねていくうちに、いつしかアニメらしい表現として昇華していくところに特色がある。『カラフル』は、その最たるものだ。アニメが得意とするようなファンタジックな描写をあえて使わずに、実写でも作れるような日常的なアングルで物語を紡いだ。「正直、僕みたいな地味なものを作ってきた人間としては、それで作り切るというのは不安なんですよ。ふとわれに返って、これ本当に面白いのかなと思うときもありますし。描いているうちに空を飛んじゃえとか、ファンタジックにしちゃおうかとか、そういう誘惑に襲われることもあったんですけど、我慢、我慢と自分に言い聞かせました。地味な歩みにストレスを感じながら、歩き通すというのが重要なんです」と制作途中の思考を解説し、「大人も泣けるアニメ」制作までの道のりの一端を明かした。