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ブラック・シネマのゴッドファーザー、70年代に製作した黒人映画の金字塔『スウィート・スウィートバック』製作秘話

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メルヴィン・ヴァン・ピーブルズ監督
メルヴィン・ヴァン・ピーブルズ監督 - PHOTO:Nobuhiro Hosoki

 “ブラック・シネマ”のゴッドファーザーとして評価されるメルヴィン・ヴァン・ピーブルズ監督が、70年代に製作した革命的な作品『スウィート・スウィートバック』について語った。

 同作は、秘密クラブのガサ入れで警察に逮捕されリンチを受けた男スウィートバック(メルヴィン・ヴァン・ピーブルズ)が、反抗したさいに警官殺しをしてしまい、その後必死に逃走を図るという映画。冒頭で「白人社会に嫌気がさしたブラザー&シスターたちに捧ぐ」と前置きして始まるこの映画は、白人偏重のハリウッドの製作に反抗した黒人映画の金字塔的作品。

 メルヴィンは、この作品の前に『ウォーターメロン・マン(原題) / Watermelon Man』という映画を監督し、その後にコロンビア・ピクチャーズとの3本の映画の契約が可能だったのに、それを蹴ってこの映画を製作したのは「映画界に入ったのは1957年で、そのころからこういう映画を製作したいと頭に思い描いていたんだ。ただ、その当時はもっと自分が映画を学ばなければいけなかったし、技術的な面で製作は難しかった。だから一度監督してみて、できると判断してからようやくこの映画を製作することになったんだ」と語った。だが、「1970年代当初は、黒人がハリウッドの配給会社を無視して、インディペンデント映画を製作することはできなかった。そのころは、多くの配給会社の背景にマフィアの存在があったからね。つまり撮影中は、彼らの監視下にあったんだよ。だから、この映画の冒頭でエッチなシーンがあるのは、この映画をポルノ映画と彼らに思わせて、彼らをだましながら製作したからなんだ」と製作の苦労も明かした。

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 監督、脚本、編集、音楽も担当していたメルヴィンは、主役も演じている。「当時知名度のある黒人俳優たちは、自分の身の危険とその後の俳優としてのキャリアを考えて、誰も主役をやりたいと言ってくる人はいなかった。黒人だけのマイノリティ映画と苦言を呈した人たちも居たよ。そんな中、自分が心底信頼できる相手を探そうとしていたさいに、それは自分しかいないと思ったんだ。それで結局、自分を俳優として雇ったわけだ(笑)」と選択の余地がなかったことを教えてくれた。

 この映画が公開されたときの観客の反応について「デトロイトでこの映画を公開したさいに、一番最初にそのスクリーンに来た60代くらいのお婆ちゃんは、20分しか観ないでチケット売り場に戻ってきて、お金を返してくれと言ってきて、おそらくそれが一番最低の出来事だった……(笑)。だがその後、スクリーンを観た人たちが友人たちに勧めて、初日の夜には映画館の回りに長蛇の列ができるほどになったんだ」と運命を変えた瞬間だったようだ。ちなみに、60~70年代にかけて黒人解放闘争を展開したブラックパンサー党は、この映画をメンバー全員に鑑賞させていたそうだ。

 映画は、実験的な編集と正確なビートを刻む黒人音楽が印象に残る映画に仕上がっていて、ブラック・シネマを知る上では見逃すことのできない作品。スウィートバックの子どものころの役に、メルヴィンの息子マリオ・ヴァン・ピーブルズが出演しているのも注目だ。

 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)

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