本年度アカデミー賞外国語映画賞受賞作品『イン・ア・ベター・ワールド』について、スサンネ・ビア監督が語る!
今年のアカデミー賞外国語映画賞で並み居る秀作を抑え、見事にオスカーの栄冠に輝いた映画『イン・ア・ベター・ワールド(原題) / In a Better World』について、スサンネ・ビア監督が語った。
同作は、アフリカの難民キャンプで医者として救護活動に励むアントン(ミカエル・ペルスブラント)は、デンマークの自宅と全く異なった環境で仕事に従事していたために、家族との間に亀裂が生じ始めていた。アントンには10歳になる長男エリアス(マーカス・ライガード)がいて、彼は学校では虐められていたが、ある日転校してきた友人クリスチャン(ウィリアム・ヨンク・ニールセン)に助けられる。ところが、そのクリスチャンが計画した、人の命にかかわる危険な企てにエリアスは誘い込まれていく……。映画は親子の絆と現代の社会問題を描いたヒューマンドラマに仕上がっている。スサンネ・ビア監督は、これまで映画『ある愛の風景』や『アフター・ウェディング』を手掛け、本作はアカデミー賞だけでなくゴールデングローブ賞外国語映画賞も受賞している。
映画内では、アフリカの難民キャンプ付近の原住民の間で起きているバイオレンスと、デンマークの学校で起きている子ども同士のイジメが並行して演出されているのが興味深い。「アフリカの難民キャンプとデンマークにある街とでは、これほど異なった環境はないと思いがちだけれど、人間の持つ本性(暴力性)は同じだと思っているの。確かにアフリカで起きている原住民のバイオレンスとデンマークで起きているイジメでは、周りがそのバイオレンスを監視している状況が違うのは明らかだけれど、アフリカで原住民の子どもや女性を無差別で痛めつけるリーダー格の男と、クリスチャンのような少年が命にかかわる危険なことをしているのは同じ悪なの。ただ、バイオレンスを監視している環境が違うと、そのバイオレンスの対応も変わってくるわね」と語ったように、現代の社会問題を異なる場所で浮き彫りにして比較している。
映画内で重要なカギを握る子役二人、マーカス・ライガードとウィリアム・ヨンク・ニールセンのキャスティングについて「まず、120人の子どもたちをテープに収めながらオーディションしたの。そのテープを、映画学校時代から共にわたしの映画の編集に携わってくれているペニッラ・ベック・クリステンセンが編集して、わたしとともにに子役を12人ぐらいまで絞り込んだわ。その中でも、出演したマーカスとウィリアムは特に際立っていたけれど、彼らはこのような映画に出演したことが全く無かったから不安だったの。でも、ウィリアムは天使のような顔立ちをしているのに、目の中にダークな部分を秘めている感じがして、とても素晴らしいと思ったわ」とかなり入念に子役を選考したようだ。
ゴールデングローブ賞外国語映画賞も受賞し、アカデミー賞外国語映画賞も期待したのではないか。「こういった賞の授賞式では、受賞することを考えてはいけないと思うの。受賞することを考えると必ず失望することになるから……。唯一できることは、(それまでに)良い映画を作ることだけ。もし運良く受賞し、そこから自分を進展させることはできても、受賞することを計画に入れてしまったら駄目だと思っているわ」と受賞したにもかかわらず、謙虚な言葉が返ってきたが、一応受賞したときにナーバスにならないため、スピーチだけは用意していたようだ。
学校で子どもたちの中に自殺者が出たり、イジメが出ると、ある親は学校、映画、音楽、さらにインターネットなどのコンテンツなどを原因対象にして、親としての責任逃れをするケースがあるが、本当の問題はそういった親にあるのではないだろうか。スサンネ監督は「確かに親が責任を言い逃れるケースはあるけれど、この映画では学校で起きている子どものイジメなどの対処の仕方が(親が困惑するような)すごく難しい設定になっているの。映画内ではエリアスが学校で虐められているけれど、それをエリアスが母親に伝えて、学校に母親が来たりしたら、さらなる悲劇が訪れることもわかっているの。だから、こういった自殺やイジメは、常に学校と親との間で、共同でチェックしていく必要があると思っているわ」と世界的な問題にも触れた。
スサンネ監督は、この映画の題材となっている復讐と寛容について見終わった後に、共に鑑賞した人たちと話し合ってもらいたいと語っていた。だが、これまでシリアスな題材を扱った映画が多かった彼女の次回作は、ロマンティック・コメディを製作する予定らしい。
(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)