布川事件容疑者の桜井氏と杉山氏、無罪判決延期よりも震災被災者を気遣う「わたしたちはまだ幸せなのかもしれない」
31日、ドキュメンタリー映画『ショージとタカオ』のトークイベントが新宿のK's cinemaで行われ、本作の題材である強盗殺人事件、通称「布川事件」の実行犯とされ、29年間にわたる獄中生活を送った桜井昌司氏と杉山卓男氏、そして井手洋子監督が登壇。無罪が言い渡される見込みだった再審判決が東北地方太平洋沖地震の影響で延期になる中、桜井・杉山の両氏は自分たちの判決よりも被災者を気遣う優しさを見せた。
本作は1967年に茨城県で起きた強盗殺人事件・通称「布川事件」において、犯人として有罪が確定し、獄中生活を送った桜井氏と杉山氏の仮釈放後の姿を14年にわたって追ったドキュメンタリー。仮釈放後、弁護団が検察の証拠不備と証拠隠しを追及して再審請求が認められた。3月16日に予定されていた再審判決が行われていれば、控訴期限の翌日となるこの日は晴れて無罪が確定するはずだったが、震災の影響で判決は5月24日に延期となった。
再審判決が延期になったことについて聞かれた2人は、自分たちのことよりも震災の被災者の人々が気掛かりな様子。杉山氏が「震災や原発の問題で気持ちの整理がついていません」と語れば、一方の桜井氏も「(被災者の方々に比べたら)わたしたちはまだ幸せなのかもしれない」と沈痛な面持ちでコメントし、この日会場に用意された募金箱への募金に協力を呼びかけた。
布川事件では証拠不十分だったにもかかわらず、自白が決め手となって容疑者とされ、有罪が確定した両氏。当時の取調べの様子を振り返った桜井氏は「朝から晩まで『お前が犯人だ、見た人がいる』と言われ続けた。凶器を持っていないか裸にされるのだが、裸にされる側とする側の圧倒的な立場の違いの中でそう言われ続けると、逃げたいという気持ちになる。さらにうそ発見器でうそと出されたら、『好きにしろ』という気持ちになってしまいます」と自白したことへの悔しさをにじませた。さらに「検察はいったん犯人と決めたら、録音テープや証拠の改ざんもするし、無実の証拠も隠す。そんな裁判は二度とできないようになってほしいと思う」と現在の裁判制度を痛烈に批判した。
同じく取り調べの様子を振り返った杉山氏が、「現場の家の図面を描けと言われたが、現場に行っていないので描けるわけがない。けれど『普通の家はどういう形している? 普通の家には何がある? それをここに描きなさい』と描かされました」と検察の理不尽なやり口を語ると、観客たちは驚きつつも、決して人ごとではない体験談に食い入るように聞き入っていた。(肥沼和之)
映画『ショージとタカオ』は新宿K's cinema、横浜ニューテアトルにて公開中