アメリカ人監督描く、銀座の世界的なすし名店で3つ星の「すきやばし次郎」ドキュメンタリー、米での配給会社が決定!
今年のトライベッカ映画祭で一番最初に配給会社が決まった日本のすしの名店「すきやばし次郎」を描いたドキュメンタリー作品『ジロー・ドリームス・オブ・スシ(原題) / Jiro Dreams of Sushi』についてデヴィッド・ゲルブ監督が語った。
同作は、ミシュランガイドで3つ星を獲得した世界的に有名な銀座の寿司店「すきやばし次郎」の創設者で、85歳で現役寿司職人の小野二郎さんと息子たちを含めた弟子との関係を、こだわりを持った職人の観点からつづった作品だ。
アメリカ人であるデヴィッド・ゲルブ監督が、日本のすし店を描くことになった経緯は「実は、世界中でベストの寿司職人を描いた作品を制作するつもりだったが、多くの職人を描くことは、ちゃんとした映画として成り立つか疑問に思っていたころに、小野二郎さんを撮影することになり、彼を知る過程で自分が伝えたいすし職人の世界のことが、すべて彼の観点から伝えられると判断したことが制作の始まりだったんだ。それから、小野二郎さんと息子さんたちの関係を描いたことで、しっかりとした映画に結びついていったんだよ」と述べたデヴィッドの父ピーターは、メトロポリタン・オペラのジェネラル・マネージャーで、彼が日本を訪れたさいに知り合った長年の友人で、料理批評家の山本益博氏が協力してくれ、「すきやばし次郎」で撮影ができることになったそうだ。
小野二郎さんの二人の息子、兄の禎一さんと弟の隆士さんは、初めからすし職人になるつもりでいたのか、との質問にデヴィッドは「弟の隆士さんは、小さいころからすし職人になりたかったらしく、初めは父親二郎さんのもとで学び、それから一本立ちして自分の店を六本木に開くことになった。兄の禎一さんのほうは、小さいときから厳しい世界で働く父親を見ていたから、特にすし職人になりたかったわけではなく、むしろ彼は車に興味を持っていて、レースカー・ドライバーになりたかったこともあったらしい。けれど、父親二郎さんが禎一さんの助けが必要となって、彼は寿司職人になることを決意したんだ。それが、今では父親に劣らないほどの素晴らしいすし職人になっているんだよ」と答えた。
職場では厳しい小野二郎さんが信頼するマグロのディーラーである藤田さんは、築地でマグロを手の感触の良し悪しで判断してから、仕入れを決意するそうだ。「彼は本当にエキスパートだよ。長年やり続けているが、当然始めたころは、マグロを味見して仕入れていたんだろうが、今ではマグロの尾の近くの部分を触っただけで、良し悪しがわかるだけでなく、そのマグロ全体の中身の味まで想像できるそうなんだ。小野二郎さんが寿司のエキスパートであるように、藤田さんもマグロのエキスパートなんだ」と絶賛した。小野二郎さんの職人としての素晴らしさだけでなく、その周りのスタッフが優れていることが「すきやばし次郎」の味を高めている。
また、タコをマッサージして柔らかくすることについては「約1時間くらいタコをマッサージして柔らかくしているのは、柔らかさだけを追求しているわけではないんだ。タコをもみほぐすことでタコの体内の繊維が分解されて、それまでタコが食べていた貝類のうま味も新たに加わるんだよ。彼ら(小野二郎さんと弟子)は、すべてこのようなこだわりを持っていて、この魚はどの海洋を渡り、どういう物を食べているかも知った上で、すべての魚を取り寄せているんだ」とデヴィッドが明かしたように、魚だけでなく、米の炊き方、そして店の中の清潔感まですべて徹底して行われている。
最後にデヴィッドは日本で撮影している間に、食通でもある小野二郎さんに、天ぷら、蕎麦、焼き肉の専門店などに連れていってもらったそうで、そのさいに日本の食文化の奥深さに感心させられたそうだ。映画は、ミニマル・ミュージックの大御所フィリップ・グラスの曲と小野二郎さんが伝える哲学的教訓を含め、質の高いドキュメンタリー作品に仕上がっている。現在この映画は、配給会社がマグノリア・ピクチャーズに決まっている。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)