被災地での映画上映、洋画・邦画60作品超える提供に東宝、東映アスミックやワーナーなど7社や映画監督が賛同!被災地巡回し感動の涙
東日本大震災から約2か月がたち“心の復興”が注目されているが、4月14日からボランティアで避難場所での映画上映を行っているメンバーがいる。ゴールデンウィークには宮城県亘理郡亘理町から福島県福島市まで7会場を精力的に巡り、被災地の方々との交流を深めている。
ボランティアを行っているのは、ロッテルダム国際映画祭などで広報を努めていた経験を持つ映画会社「Loaded Films」の水野詠子さんと、ホームシアターを手掛けている株式会社バドシーン(埼玉県越谷市)の並木勇一代表をはじめとするスタッフたち。水野さんは以前から、映画祭で知り合った監督たちと、フィリピンなどの東南アジアでまだ映画を観たこともない子どもたちに優れた作品を上映するプロジェクトを企画していたという。その最中に3月11日の東日本大震災が起こった。
水野さんは米国同時多発テロが起こったとき、開催中のトロント国際映画祭のスタッフとして対応に追われ、それでも映画祭を続けた経験を持つ。「自分が今、何ができるのか?」を考えた水野さんがたどり着いたのは、やはり映画の経験を生かしたボランティア活動だったという。その思いをツイッターでつぶやいたところ、同じ志を持った並木社長と知り合ったという。お互いの得意分野を生かし、水野さんは映画会社から上映許可を得た作品集めに奔走し、並木さんは会場の設営を担当することに。この2人の活動に賛同した企業は東宝や東映、アスミックエースやワーナーブラザースなど7社に及び、すでに映画『ALWAYS 三丁目の夕日』や『ニュー・シネマ・パラダイス』など60作品を超えるという。また、宮城県気仙沼市に自宅を持つ小林政広監督や、牡鹿郡女川町に夫人の実家がある『鉄コン筋クリート』のマイケル・アリアス監督も協力を名乗り出てくれたという。上映会場は現地でボランティアを行っているNPO団体や災害ボランティアセンターの要望を受けて決めたという。
とはいえ、最初はライフラインが復旧していない地域もある中、映画を上映することを迷惑がられないか心配だったという水野さん。しかし、宮城県仙台市若林区の六郷中学校体育館や本吉郡南三陸町の寺浜生活センターなどでは、せっかく映画の上映があるのならと、地元の露天商共同組合の方々がたこ焼きや綿あめの屋台を出し、お祭りのように盛り上げてくれたという。また福島県福島市の花村小学校で子どもたちのリクエストに応えて『映画ドラえもん のび太の恐竜2006』を上映したところ、お年寄りまでもが感動の涙を流していたという。
上映の様子について、水野さんは「どんな作品を上映したらいいのかいろいろ考えたのですが、『ナイト ミュージアム』がウケていましたね。皆さん、楽しい映画が観たいとおっしゃっていました。また昼間の避難所は若い人たちは働きに出てしまうので、子どもや高齢者が中心。子どもは『名探偵コナン』や『ONE PIECE』といったアニメ、高齢者は圧倒的に時代劇の要望が高かったですね。若いころに観た、吉永小百合さんや小林旭さんの青春映画を観たいという声もありました」と報告する。何より、「久しぶりに笑ったし、泣いたよ」や、「こんなに喜ばせてくれてありがとう」と声を掛けられて、映画を届けてよかったと胸がすく思いだったという。
帰り際には子どもたちがいつまでも手を振って見送ってくれたこともあった。 同時に、現地でまざまざと見せつけられた現実に胸を痛めたという。水野さんたちが5月2日に福島県いわき市のいわき市勿来体育館を訪れたとき、避難者の食事は、1日朝・晩2回で、1食は塩おむすび2個。5月5日に宮城県亘理町の山元中央公民館を訪れた際は、居住スペースが足りず、野外でテント暮らしを余儀なくされている被災者もいた。その周辺の道路は、行方不明者捜索のために道路が封鎖されている所もあったという。その一方で物資やボランティアが余っている避難所もあり、地域での格差にがく然としたという。
被災地での映画上映は、松竹が先ごろ、会社をあげて実施することを発表し、また今月末からはプロデューサーや映画監督らが発足したプロジェクト「映画屋とその仲間たち」のメンバーも現地入りする予定で、映画界での支援の輪が広がっている。水野さんは「ほかの団体の方々と連絡を取り合いながら、まだまだ支援が行き届いていないような地域をできるだけ訪れたい」と長期的に活動を続けることを誓った。(取材・文:中山治美)
なお、映画上映の希望は「バドシーン」の並木勇一氏に(yuichi.n@budscene.co.jp)、上映作品提供の問い合わせは「loaded Films」(loadedfilms@gmail.com)まで。