『バベル』のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督を直撃!新作『BIUTIFUL ビューティフル』の世界観とは?
映画『21グラム』や『バベル』などを手掛けてきたメキシコ出身のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督が、ハビエル・バルデム主演でメガホンを取った注目の新作『BIUTIFUL ビューティフル』について語った。
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトウ監督映画『BIUTIFUL ビューティフル写真ギャラリー
同作は、二人の子どもと情緒が不安定な妻を抱えるウスバル(ハビエル・バルデム)は、家族を養うためにスペインのバルセロナの裏社会で悪事に手を染めながら生きていた。だがある日、末期がんであることを宣告された彼は、死への恐怖と闘いながら、新たな決断を下していくという重厚なドラマ作品。今年のアカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた秀作だ。
これまで世界中の国々で撮影してきたアレハンドロ監督が、今回スペインのバルセロナを舞台にした経緯は「実はこの脚本を執筆している時点で、ハビエルを主役にと思い描いていたんだ。もちろん、リスクを背負っていたよ。もし彼に出演を断られたら、ほとんど内容を変えなければいけなかったからね……(笑)」とそれほどハビエルに期待をしていたらしい。ただ、運良く彼が出演に同意してくれたことで「僕はハビエルの母国スペインで撮影するのが正しいと思ったし、それに僕自身もスペイン語を話すから、撮影場所には適切な国だと判断したんだ。その中でもバルセロナを選んだのは、美しい都市ではあるが、それとは対照的に厳しい生活を強いられた移民が多く住んでいる都市でもあり、この都市はある意味で現在の世界状況の縮図とも感じられたことがきっかけだったんだ」と述べたアレハンドロ監督は、貧困層の多い区域の難しい撮影は、スペイン政府が協力的であったことも明かした。
『BIUTIFUL ビューティフル』というタイトルについて「これまで『アモーレス・ペロス』、『21グラム』、そして『バベル』でも、常にタイトルを決めるのは最後だったんだ。このタイトルは、人のジェスチャーの裏側にある、視覚からの明らかな美だけではなく、表面上に表れない感情的な美を意味していることから、このタイトルに決めたんだ」と説明した。
今作も含め、これまでのアレハンドロ監督作品には、“失うこと”が主軸に描かれていることが多いことについて「(この主役ウスバルのように)我々人間は限られた状況下でこそ、より人間の本質を明らかにすることが多いと思う。さらに、我々の人生はそんな数々の“失うこと”でも構成されていると思う。その中には、若さを失うこと、人を失うこと、平静を失うこと、お金や名誉を失うことなどいろいろあるが、逆に愛や知恵などを手に入れることもしていることが重要なんだ。だから、この映画の主役ウスバルもがんになったことで、残りの人生の旅路を通していろいろ知っていくことになるんだ」とメッセージ性の強い映画であることを語った。
最後に、アレハンドロ監督は『アモーレス・ペロス』から3年~4年ぐらいのペースでコンスタントに長編映画を監督してきたが、今作がいつもより時間が掛かった理由には、編集に約1年半ぐらい掛けたせいでもあると話してくれた。この作品は、限られた命の中で、人としてのあり方や家族愛が深く刻み込まれた映画に仕上がっている。 (細木信宏/Nobuhiro Hosoki)