『アイコ十六歳』の今関あきよし監督、罪を償い9年ぶりの渾身作 チェルノブイリ原発事故のその後を描いた恐ろし過ぎるファンタジー
1986年にソビエト連邦(現・ウクライナ)で起こったチェルノブイリ原子力発電所事故から25年を迎えた今年、事故を題材にした映画『カリーナの林檎~チェルノブイリの森~』が11月中旬に公開されることが決まった。
チェルノブイリでも活躍したガイガーカウンターが、福島で鳴り響いている緊迫した映像
メガホンをとったのは、映画『アイコ十六歳』などで知られる今関あきよし監督。今関監督は2004年に児童買春禁止法違反などの罪に問われて懲役2年4月(求刑懲役3年6月)の実刑判決を受けており、自作の公開は『十七歳』(2002年)以来、9年ぶりとなる。インタビューに応じた今関監督は「本来この映画は福島第一原発事故前に、警告の意味を込めて上映すべきだったが、自分が犯した罪で公開が遅れ、スタッフを含めて多くの方にご迷惑をおかけしてしまった。このまま作品を眠らせておくことの方が自分の罪を広げるような意識もあり、また今の自分が出来ることはコレしかないと公開に踏み切らせて頂きました」と苦悶した胸の内を語った。
同作品は、放射能汚染の危険がある村からベラルーシに越してきた少女カリーナの目線で、チェルノブイリ事故その後を描いたファンタジーだ。カリーナは、入院中の母に次のように聞かされる。「チェルノブイリには悪魔の城があり、悪魔が毒をまき散らしているのだ」と。やがて自分も病に倒れたカリーナは、悪魔の悪事を止めるべく、一人、チェルノブイリの森へと向かう。ベラルーシの美しい景色がより一層、運命の残酷さを際立たせる切ない物語だ。
製作は、2003年春にさかのぼる。車を運転中、たまたまラジオから流れてきたチェルノブイリ原発事故の話題を耳にした今関監督は、現地の「今」に興味を抱く。早速、事故現場へ飛ぶと、持参した米国製ガイガーカウンターはバリバリと不快な音を立て、6年経っても事故が全く収束していない事実を知る。続いてベラルーシ国立小児血液学センターを訪れると、甲状腺がんや白血病で苦しむ子どもたちが多数いた。
「印象に残っているのは、病名も分からぬ奇病で顔が変形し、隔離病棟にいた8歳ぐらいの少女。豚のぬいぐるみを抱きながら明るく言うんです。『わたしの顔もブタさんみたい』って。その子は二度目に取材へ行った時には亡くなってました。ほか、何人か取材しましたが皆、抗癌剤の影響で髪の毛が抜け始めていた。するとお母さんたちは決まって『髪があった時はこんなに可愛かったのよ』と子どもの昔の写真を見せてくれるんです。最初に医師から『患者たちの前では絶対に泣かないでくれ』と注意を受けていたけど……、正直、取材はキツかったです」。
すぐに今関監督は取材で出会った人たちをモデルに脚本をしたため、2003年の夏と冬にベラルーシで撮影を行った。スタッフは日本人、キャストは現地人の混合チーム。製作費1,500万円は、私財から捻出した。ベラルーシの人たちは、風化されつつあった事故のことを、まして異国の日本人が取り上げてくれることに感謝してくれたという。その証に2004年には日本公開よりも先に、ベラルーシとリトアニア共和国での公開が決まっていた。だが公開を控えた5日ほど前に、今関監督があの事件を起こしてしまう。今関監督は関係者と話し合った結果、公開を自らキャンセルするという決断を下した。
「全部自分が悪いのだけど、拘置所では錯乱状態に陥り、精神安定剤などでは対処出来ずに、夜中に刑務官に話を聞いてもらったこともありました。『こういう場所に居ること自体普通じゃないのだから、あなたのようになるのが普通なんじゃないんですか?』という言葉に少し救われたことを覚えてます」。
その後、函館少年刑務所に移送されて、刑期を務めること1年7月(※刑期短縮により)。所内でも性犯罪は蔑視され、約1か月はまともに食事にありつけないなどイジメにも遭ったという。だが、師と仰ぐ大林宣彦監督をはじめ友人たちは今関監督を見捨てず、手紙で励まし続けてくれ「それが唯一の支えでもありました」という。
そのうちの一人で、『カリーナの林檎~チェルノブイリの森~』の撮影を務めた三本木久城は今年4月1日、今関監督の福島第一原発事故現場の取材にも同行している。福島原発事故の情報が錯綜する中、チェルノブイリで見えない恐怖を体感した者として、自分の目で事故を確かめたかったという。チェルノブイリでも活躍したガイガーカウンターが、福島で鳴り響いている緊迫した映像は、You Tubeで公開されている。
「映画をやっと解放出来ると思っていた矢先に福島の事故が起こってしまった。放射線の直接的な被害に加え、家族がバラバラになる悲劇が今後もっと増えてしまうかもしれない。『カリーナの林檎~チェルノブイリの森~』で、25年後の福島を想像して頂ければ」今関監督は現在、新たな職に就いており、映画監督を続けていくかは未定だという。
「まずは、この作品に決着を付けないと。そうしなければご迷惑をかけた方たちに失礼に当たるし、ああいう事件を起こした以上、ハイ、次! とはいけません。まだ僕の気持ちの半分ぐらいは、函館にいますね。自分の心の整理をつけるためにも、まだ時間が必要かなと思ってます」(取材・文:中山治美)
映画『カリーナの林檎~チェルノブイリの森~』は11月中旬公開