刑務所帰りの父親が、息子の性転換にどう対応するのか?「NYPD BLUE ~ニューヨーク市警15分署」のイーサイ・モラレスが熱演
今年のサンダンス映画祭で審査員賞にノミネートされたスパニッシュ系の家族を描いた話題の作品『ガン・ヒル・ロード(原題) / Gun Hill Road』について、ラシャード・アーネスト・グリーン監督と、テレビドラマ「NYPD BLUE ~ニューヨーク市警15分署」などでおなじみの主演イーサイ・モラレスが語った。
同作は、エンリケ(イーサイ・モラレス)は3年の刑期を終えてニューヨークのブロンクスの自宅に帰ってくるが、夫の居ない間に妻アンジェラ(ジュディ・レイエス)は不倫し、息子マイケル(ハーモニー・サンタナ)は性転換を考えていることを知る。そして彼は、受け入れがたい環境下で正面から家族との対応を迫られるというドラマ作品。
まず印象深いのは、この映画でセンセーショナルな初演技を披露した性転換をする息子役のハーモニー・サンタナのキャスティングについてだが、「おそらく2か月くらいニューヨークの街を徘徊し、特にナイトクラブやゲイの住人の多いクリストファー・ストリートなどでよく探していたんだ。ハーモニー(以下は“彼女”とする)を見つけたのは、クィーンズで行われたゲイ・プライド・パレードで、彼女はエイズ・プロテクション・グループの活動に参加していてたんだ。まだそのときの彼女は、スパニッシュ系の男の子の顔をしていたが、これから性転換をしたいことと、いつも演技することを夢見てきたことを話してくれたんだ。そのときの彼女は、最も美しい天使のような顔立ちをしていて、僕はこの映画にふさわしいと思ったんだよ。その後のオーディションでも彼女は自然で、キャスティングすることになったんだ」と明かした監督のラシャードは、この映画のマイケル役の性転換へのプロセスと同時期に、ハーモニーも性転換への手術を行っていたことも明かした。
なかなか息子マイケルの性転換を受け入れられない父親エンリケについて「この父親エンリケは、人々がどのように彼を見ているかを気にしているんだ。それに、エンリケは彼の住む環境ではストリート・スマートな要素を持っているが、彼の教育レベルは洗練されていない。だから、子どものことになると(刑務所を出所したばかりで)自分が虐待しているかもしれないとも思ってしまうんだ」と周りの反応を気にしてしまうキャラクターであることを話してくれた後、「さらに、彼がこの家に戻ってくると、男としての価値をあらゆる箇所から攻撃されてしまうんだ。それは妻は不倫し、子どもは性転換を考えている。ある意味、周りの人たちの間でジョークになっているとも考えてしまうんだ。そこで、自分の男としてのプライドを守ろうと行動することが、正しいことをしていると思ってしまうんだ」と父親としての選択が必ずしも、家族にとってふさわしい答えでないこともあると、この映画の制作指揮も務めた主演のイーサイが語った。
スパニッシュ系の観客は、この映画にどのような反応を示すかについて監督のラシャードは「彼らスパニッシュ系の観客は、この映画が重要なことを理解することになると思う。この映画ではスパニッシュの伝統や宗教背景、規律として守られてきたことも含まれ、その上で家族としての困難を描いている。もちろん、この映画の家族は他の家族と違って同じような問題を抱えているとは言えないが、多くの人たちはこの映画の家族の意見が食い違った点などを通して共通点を感じてもらえると思うんだ」と答えた。
映画は、テレビドラマ「NYPD BLUE ~ニューヨーク市警15分署」に出演していたイーサイ・モラレスと、テレビドラマ「scrubs ~恋のお騒がせ病棟」に出演していジュディ・レイエスが脇を固め、新人のハーモニー・サンタナとともに骨太なドラマ作品を作り上げている。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)