駄作か?傑作か?恋人の死を映像化…『監督失格』の平野監督が岩井俊二監督と本音トーク!
恋人・林由美香の遺体発見時の映像を使用していることで、賛否両論の物議を醸している映画『監督失格』の平野勝之監督が岩井俊二監督と対談し、監督として、問題のシーンを使用する決断を下すまでの苦悩を語った。
映画『監督失格』は、公開前から「遺体が映っているらしい……」というセンセーショナルな話題だけが一人歩きし、ネットでは、未見の人から抗議の声が上がっていた。対談で、製作の甘木モリオは「これから映画を観るお客様には、ぜったいに最後まで観て欲しいです。最後まで観れば、当日の映像がどんな意味を持っていて、決して倫理観に触れるものではないことが分かってもらえると思うんです。」といまだ本編を観ていない観客に向けて、自らの想いを伝えた。
林の遺体を発見したとき、平野監督の手から転がり落ちたカメラがとらえた映像。「演出家としての平野の意思も、登場人物である由美香の意思も超えたところにあるから揺るぎない」という問題のシーンについて、岩井監督は、「二人が旅行をしている映画の前半は、どちらかがカメラを回している。でも、最後のシーンでは、偶然置かれたカメラによって、二人のどちらでもなく、カメラが二人を捉えている。まるで、自分の意思を持って回っているかのような錯覚に陥りますよね。鳥肌が立ちました」と語る。「あの映像がほんとうに強い映像であるがゆえに、制作中は、あの映像にずっと振り回されていた」という平野監督は、「もしもこの映像を映画のなかに組み込むのならば、70点、80点の映画ではだめだ。100点ではまだ足りない。それほどの強い意志が必要だった」と強い覚悟を話した。「笑って話ができる日がくるなんて、思えない」との言葉どおり、平野は苦しみ続けていたという。
映画『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』など、映画音楽にも徹底的にこだわってきた岩井監督らしく、本作の主題歌を歌っている矢野顕子についても質問が及ぶと、矢野が忌野清志郎が亡くなったときに書き下ろした曲がきっかけにオファーが決まったこと、そしてオファーをして1か月返事がこなかったという主題歌誕生までのエピソードを披露。「観客のために、どこか逃げ場を作りたかった」という甘木の思い通り、主題歌「しあわせな、バカタレ」を歌う矢野の優しい声は、悲痛なシーンを含んだ本作にやわらかな風を送り込み、岩井監督も「映画だけを観ると、ただただ圧倒されていたんですが、そういう想いをやわらかくしてくれる」という。
劇中で、絶好のタイミングでカメラを回していない平野監督を、林が「監督失格!」と叱るシーンがある。監督は、「もしも由美香がこの映画を観たら、泣くかもしれないけれど笑いますね。絶対に」と話した。岩井監督も、「人に伝えるのが本当に難しい」と語った本作。駄作か傑作か、その判断は、作品を見た観客の心に委ねられる。(編集部:森田真帆)
映画『監督失格』はTOHOシネマズ六本木ヒルズにて独占先行公開、10月1日より全国拡大公開