鬼才キム・ギドク監督、オダギリジョーの訪問もあった隠遁生活をとらえた復帰作を携え映画界にメッセージ
韓国の鬼才キム・ギドク監督が新作映画『アリラン』を引っさげて来日し、オダギリジョーとの秘話やちゃめっ気あふれる意外な素顔を21日に有楽町朝日ホールで行われた会見で披露した。ギドク監督にとっておよそ3年ぶりの新作となる『アリラン』は、監督のほか脚本・撮影・編集・音響・出演(1人3役)などを1人で担った究極のセルフ・ムービーとなっている。
前作『悲夢(ヒム)』の撮影中、1人の女優が危うく命を落としかける事故が起き、大きなショックを受けたギドク監督は以後映画を撮ることができなくなる。そして映画界との接触を断って粗末な小屋での隠遁生活に入り、カメラに向かって自身の思いを告白し始める。しかし、そこへ第2のギドクが現れて突っ込みを入れ、さらにそれをモニター越しに見つめる、第3のギドクも登場。そんな本作は、監督自身の言葉を借りるなら、「ドキュメンタリーなのかファンタジーなのか、ドラマなのかわからない作品」となっている。
過激な描写で知られるギドク監督だが、作品の印象と違って、会見の機会が設けられたことに感謝し、スケジュールの都合で個別取材が受けられないことを謝ってから会見を始めるなど、隠遁(いんとん)生活の影響もあってか、この日はどこか仙人然とした印象を受ける。さらにかつての定番であったTシャツにキャップ姿ではなく、韓国の伝統的衣装を身にまとっており、それについて質問が及ぶと「たまたま通りかかった店の店頭にあったので買っただけ。以前は20年くらいぼうしをかぶっていたが、今は髪を伸ばしていると似合うと言ってもらえるのでうれしい」と答え、その無頓着なさまが、風ぼうと見合って、やはりどこか「仙人らしさ」を感じさせた。
なお隠遁(いんとん)生活を送った小屋には、『悲夢(ヒム)』に出演したオダギリジョーの訪問もあったといい、この情報をつかんでいた記者から質問が飛ぶと「秘密だったんですが」と監督は笑いながらあっさりと白状。このオダギリの訪問時もカメラを回していたとのことだが、今回はキム・ギドク1人だけが出演する作品ということでカットしたといい、「また別の作品でお見せできる機会があれば」と語っていた。
会見の最後にギドク監督は、「ハリウッドのリメイクのような作品が多い」と現在の映画産業の巨大化を憂い、「わたしはこれまで自分の心・精神を込めて映画を作ってきました。日本も世界の監督たちも、ずっと諦めずにそういう気持ちを持ち続けてほしいと願っています」とメッセージ。自らの手で協力的に『アリラン』のポスターを持ち写真撮影に応じたその姿は、自身の作品を評価し支持してくれる日本のファンへの感謝を表しているかのようだった。(取材・文:長谷川亮)
映画『アリラン』は2012年3月、シアター・イメージフォーラムにて公開