「アート系映画が観られない!?」「映画料金は下がらない?」…映画のデジタル化がもたらすものとは?
24日、現在開催中の第12回東京フィルメックスで公開シンポジウム「デジタル化による日本における映画文化のミライについてPart 2」が開催され、瀬々敬久監督、村上淳、大分県のミニシアター「シネマ5」の田井肇氏、日本大学藝術学部映画学科の古賀太教授らが参加し、活発な議論を戦わせた。
冒頭、まず田井氏がミニシアターが置かれている現状を解説。それによると、映画が音声を得た「トーキー」、そして色彩を得た「カラー」に続く映画の革命といわれる「デジタル化」。シネコンを中心にデジタル化は着々と進んでおり、2013年にはすべての映画館のデジタル化が完了予定。それに伴い、35ミリフィルム上映がなくなってゆくことが予想されているという。今回のシンポジウムは、それによりアート系などマイナーな映画が上映の可能性が狭まる「映画文化の多様性の危機」が心配されるというテーマで開催された。
デジタルシネマの設備投資は1,000万円前後。しかし、ミニシアターがその設備を導入するのは困難が伴う。そこで考え出されたのがVPF(バーチャル・プリント・フィー)というシステムである。これはつまり、これまで約20~30万円程度かかっていたフィルムの現像代・輸送コストなどが、デジタル化によって実質ゼロになるため、その分配給会社が浮いたお金をVPFサービサー(現在、日本にはソニー系、ブロードメディア・スタジオなど3社がある)に支払い、映画館からデジタル上映機器の利用料を徴収することで、映画館のデジタル化を推進しようというもの。
現在、アート系と呼ばれるような小規模公開の映画は2~5本程度のフィルムを現像し、それらを全国に巡回させている。たとえば1本のフィルムが5か所の映画館で巡回上映されるとしたら、VPFのシステムでは配給会社が一か所で上映するごとに7~9万円を払わなければいけなくなる。シンポジウム内では、これが、芸術性は高くてもヒットの見込みが低い作品は配給会社が供給を躊躇(ちゅうちょ)するようになり、アート系映画が観られなくなる、というのがこの問題の本質であるとも指摘された。
田井氏は「2013年には日本の映画館のデジタル化が完了するといわれているが、それはつまりデジタル化しきれなかった地方単館系の映画館を苦しめ、廃業させるということによってもたらされるもの」と指摘する。また、仮に現像代20万円を稼ごうとする場合、1週間で160~170人程度を動員しなければならないといい、地方ミニシアターの場合、年間上映される作品の中で興収20万円を超えなかった作品は半数近かったという。さらにわかりやすく解説するために、「キネマ旬報ベスト10」「映画芸術ベスト10」に選ばれた作品で、地方のミニシアターで興収の低かった作品が挙げられると驚きの声が。そこに挙げられた主な作品は『エグザイル/絆』『愛のむきだし』『SR サイタマノラッパー』『チェイサー』『イースタン・プロミス』『ヘヴンズ ストーリー』などなど……。「今までは(1館あたり)10万円すれすれで採算を度外視してでもやってきた映画がゴロゴロある。でもVPFによってデジタル化を遂げた場合、半分以上の映画は配給会社から断られるようになり、上映ができなくなる」という警鐘に言葉を失う会場内。
もちろん日本でも経済産業省がデジタル上映の設備投資に支援金を出すなど、公的な援助も行われている。決してデジタル化は悪の権化というわけではなく、「フレキシブルな上映プログラムが組める」「地方都市でもロードショー作品を早い段階で観ることができる」「オペラやライブ上映といったこれまでにないコンテンツを観ることができる」といったメリットがある。田井氏も「デジタル化という映画史上最大の革命が起きているのに、革命実感がない。デジタル化によって、地方でも東京と同時にロードショーを開始できる。メジャーとマイナーの差が埋められる本当の革命ができるはず。何でデジタル化したのに、映画の入場料が下がらないのかとか、もっとフランクな声が出てきてもいいはずだ」とコメント。いまだ解決策の見えないデジタル問題であるが、日本の映画文化を守るため、これからも活発な議論を期待したい。(取材・文:壬生智裕)
第12回東京フィルメックスは11月27日まで有楽町朝日ホールをメイン会場に開催中