ミシュランガイド三つ星の名店「すきやばし次郎」のドキュメンタリー映画が、いよいよアメリカで公開!デヴィッド・ゲルブ監督に聞く!
日本の銀座に店を構えるミシュランガイドで三つ星の名店「すきやばし次郎」を描いたドキュメンタリー作品が、いよいよアメリカで公開されることになり、その新作についてデヴィッド・ゲルブ監督が語った。
同作は、銀座の名店「すきやばし次郎」の創業者で、現在も寿司を握っている86歳の現役寿司職人の小野二郎さんが、至高の味を追求しながら息子と弟子たちにその味を伝達していく様を、鮮明な映像で映し出された寿司とともに描いていく秀作。
普段はストイックに寿司を握ったり、弟子に指導している小野二郎さんだが、カメラを向けていないオフの状態のときは、どんな人物なのだろうか。「僕は二郎さんは、二つの顔を使い分けていると思うんだ。寿司職人としての二郎さんは寿司バーのカウンターの後ろで、言葉少なめで、鋭い目をして立っているが、一度店が閉店になると、リラックスしながらすごく(僕や職人たちに)優しく接してくれたり、面白いことも言ったりするんだ。それに、話し手の会話を常に興味深く聞いているんだ。この映画でもごくわずかだが、そんな親しみやすい姿の二郎さんを観ることができるよ」と話した後、さらに二郎さんが陶芸を趣味にしていて、湯のみなども作っているそうで、常に探究心のある人物であることも付け加えた。
小野二郎さんの信頼を得て、撮影に入るまで「信頼を得るには忍耐が必要だった。まず、料理批評家の山本益博氏と、メトロポリタン・オペラのジェネラル・マネージャーである僕の父親ピーター・ゲルブのおかげで、二郎さんの店の撮影許可を得ることができたんだ。ただ最初は、僕は外国人でさらにカメラを持ち込むとなると、彼ら寿司職人たちにとって仕事の妨げになるから、最初の2、3日はカメラを持ち込まずに、彼ら(職人たち)を観察したり、話し合いながら信頼関係を築いていったんだ。そして一度信頼関係を築いたら、まず小さなカメラで撮り、徐々に大きなカメラで撮影するようになったんだ。最終的には、職人たちとともに朝ご飯を食べるほどの仲になったんだよ」と明かした。
小野二郎さんのもと、安定した味を提供してきた「すきやばし次郎」だが、昨年の東日本大震災の影響について「東日本大震災が起きてから経済が不安定な状況下におかれ、この『すきやばし次郎』だけでなく、多くの高額な名店が経営の上で影響を受けてきた。特に寿司は、雰囲気として何かを祝うときに適した食べ物で、こういう状況下ではなかなか足を運びづらいことは確かだ。それに、新鮮で納得のいく魚を仕入れることにも、今は苦労しているようなんだ」と撮影後も彼らとコンタクトを取っていることを話してくれた。
撮影を通して、小野二郎さんから学んだことは「彼からは、自分がどうなりたいかを追求することを学んだよ。特に、彼の(哲学的な)人生の生き方は、この映画の編集の過程にも繋がっているんだ。それは僕と編集を共同で担当したブライアンが、二郎さんの(下準備する)繰り返しの作業をもとに、編集の際に映像を区分けして、再構築しながら映画を作り上げていくことを見出していくことになったんだ。その結果、二郎さんのアドバイスの通り75%ではなく、90%に仕上げていく繰り返しの作業が、非常に大切だということを知ったんだ」と貴重な撮影体験だったことを語った。
新鮮な魚の色彩と職人の技術が見事に映し出され、さらにフィリップ・グラスの曲が究極のアート作品に仕上がっている。同作は、配給会社マグノリア・ピクチャーズのもと3月9日からアメリカで公開される。 (取材・文・細木信宏・Nobuhiro Hosoki)