映画を作っても放りっぱなし…予算期間もない…日本映画を取り巻く問題を世界で活躍する2監督が指摘!
ナント三大陸映画祭で最高賞を受賞した映画『サウダーヂ』の富田克也監督と、ももいろクローバー(現・ももいろクローバーZ)出演の『NINIFUNI』の真利子哲也監督がこのほど、参加していた第13回全州(チョンジュ)国際映画祭で対談を行った。『サウダーヂ』は自主、『NINIFUNI』は中編ながら共に異例の劇場公開に漕ぎ着けたが、彼らを取り巻く日本映画界の現状はなかなか厳しいようだ。
2人の出会いは、富田監督の長編デビュー作『雲の上』(2003年製作)の上映会の時。大学在学中からゆうばり国際映画祭ファンタスティック映画祭など注目を浴びていた真利子監督だったが、同じ8mmを使った長編に衝撃を受け富田監督に握手を求めたという。以降、他監督の上映会などで顔を合わせるようになり、昨年のスイス・ロカルノ国際映画祭も共に参加した。富田監督も「年齢的には10歳ぐらい僕の方が上。映画監督と名乗る人は多いけど、良い映画を撮るなと思える人はそんなにいない」と語る互いの才能を認め合う仲だ。
今年3月には、2人に冨永昌敬監督を加えた3人でオムニバス映画『同じ星の下、それぞれの夜』が沖縄国際映画祭で上映された。同作品は地域発信型プロジェクトとして映画祭主導で製作されたものだが、2011年12月末に富田監督が企画に参加し、タイ・フィリピン・マレーシアの3か国で撮影を行って映画祭までに間に合わせるという慌ただしさ。真利子監督は「僕はマレーシアを担当したけど、以前から友人だった同国出身のリム・カーワイ監督に協力を依頼した」という。しかし、このオムニバス作品の今後の上映などは、現段階では決まっていない。
実は大学などで映像学科が設立され、若手映像作家は増えたが、依頼の多くは低予算で製作出来る短編や企画モノのオムニバスが中心だ。中には、制作費25万円・2日で短編を!という無謀な企画もある。しかもそれらを上映する場は少なく、いかにして作品を世に送り出すかを考慮していない作り手の体制も問題だ。
富田監督は「僕が映画美学校に入学した頃、前提となっていた映画とは、おおよそ撮影期間2週間、制作費3,000万円。加えて配役などあらゆる条件を押し付けられて厳しい中で作っていかなければならない、というものだった。しかし今思えば、それですら夢のような話になってしまった」としみじみ語る。
だが、10年以上自力で闘ってきた2人は現状を嘆いていない。富田監督は『サウダーヂ』の前日譚か後日譚になる新作をタイで撮影すべく動き始めた。一方の真利子監督も、長年取り組んでいるプロレスを題材にした映画『エルサント』を何とか実現しようと奮闘中だ。富田監督は「映画が文化として根付いている国に来て、純粋に映画という土俵の上で語り、語られ、世界中から集まった作り手たちとも交流ができるというのは、映画祭の醍醐味」。真利子監督も「日本ばかりいると狭い世界になってしまう。映画祭で他国の同年代の監督と話せて刺激になった」と語る。全州で養った英気が次作への原動力となることを期待したい。(映画ジャーナリスト・中山治美)
映画『サウダーヂ』は金沢シネモンド、『NINIFUNI』は金沢シネモンドと沖縄・桜坂劇場で公開中