タランティーノやエドガー・ライトに影響を与えた伝説の香港映画『キング・ボクサー/大逆転』 (ニューヨーク・アジア映画祭)
現在開催されているニューヨーク・アジア映画祭(NYAFF)で、クエンティン・タランティーノ監督やエドガー・ライト監督などに影響を与えた伝説のアクション映画『キング・ボクサー/大逆転』が再上映され、その名作についてチェン・チャンホー監督が語った。
同作は、田舎の道場で師範に教わっていたチャオ(ロー・リエ)は、師範の勧めにより都の道場を修行をすることを決意をして、選手権大会に出場するために訓練する。だが、ライバルの道場はそんな彼に対して殺意を抱き始めていくというアクション作品。映画内で目玉抜き、脳天割りなどの強烈なシーンが含まれていることでも話題になった1972年の映画。チェン・チャンホー監督は、1950年代から韓国で映画を撮っていたが、1968年から香港の映画会社ショウ・ブラザーズで働き始め、香港でこの作品を撮影した。
70年代に香港の映画会社ゴールデン・ハーベストに来たブルース・リーの作品に対抗するために、ショウ・ブラザーズはこの映画を制作したという話があるが、それは本当なのかとの質問に「実は、この映画はブルース・リーが香港の映画会社ゴールデン・ハーベストに来る前に製作されたが、制作からだいぶ後になって公開されたことで、ブルース・リーと比較されることになってしまった。つまりゴールデン・ハーベストに対抗するために製作した映画ではなかったんだ」と答えた。
70年代当時、刀を使った武侠映画が多い中、なぜ空手やマーシャルアーツの映画を撮ったのだろうか。「この映画の準備段階で、香港の他の監督と違った武侠映画を作る必要があると思ったんだ。そこで、これまでのマーシャルアーツだけでなく、少しモダンな要素もいると思った。ただ先程も述べたように、ブルース・リーのスタイルに影響されたものではないんだ」とここでも、ブルース・リーにかかわりがないことを強調した。
映画内で、OKADAという日本人の空手家が登場することについて、「(韓国出身の)僕は、制作前に中国の歴史を勉強したんだ。その過程で、中国の歴史の中で日本の侍による影響を知り、オリジナルの脚本でも侍のようなキャラクターを執筆したんだ。ただ、最終的にはこの映画のようにいつの間にか空手家になっていったんだよ」と語った。このOKADAというキャラクターは、チャオの強敵として描かれている。
この映画まで、よく悪役を演じてきた男優ロー・リエを、主人公にしたのは「僕は、ハンサムで魅力的な俳優を主人公にはしたくなかったんだ。だが、観客にはなじみやすく、共感が持てるような俳優でなければならなかった」と話した後、ショウ・ブラザーズの経営については「当時、製作本部長だったショウ・ブラザーズのレイモンド・チョウが退社して、ゴールデン・ハーベストを設立したために、ショウ・ブラザーズの設立者ランラン・ショウの第二夫人的存在のモナ・ファンがショウ・ブラザーズの製作にかかわり、制作の権限を持つようになったんだ。だが、そんな彼女が嫌だった僕はショウ・ブラザーズを離れ、ゴールデン・ハーベストに移ったんだよ」と明かしてくれた。
映画は、製作から40年経った今も色褪せぬ輝きを放った特別な映画に感じられた。国際的にも話題になったこの映画をぜひ鑑賞してみてはどうだろうか? (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)