自殺多発する東尋坊の「ちょっと待ておじさん」、自殺志願者への声掛けの大切さ訴える
13日、渋谷のユーロスペースで行われた映画『カミハテ商店』公開記念トークショーに、自殺が多発する福井県・東尋坊の「ちょっと待ておじさん」こと茂幸雄氏が出席し、自殺防止活動の現状を訴えかけた。
自殺が多発する崖のそばで、小さな商店を営む孤独な女性(高橋惠子)の姿を静かなタッチで描き出す本作。脚本を作成する際のリサーチのため、山本起也監督が茂氏にアドバイスを求めた縁で今回のトークショーが実現した。
東尋坊で「心に響く おろしもち」という茶屋を営む茂氏は元警察官。現役時代、自殺しようとした老カップルを保護した茂氏は、「生活保護もあるから」と二人を説得して行政に引き渡した。しかし彼らは、たらい回しにされた挙句、5日後に首を吊って亡くなった。「東京の人でしょ、東京に帰りなさいと(行政に)言われ、最終的に新潟で首を吊った。これは何ぞやと。構造的な犯罪じゃないか」と当時の思いを振り返る茂氏。これをきっかけに、定年退職を機に自殺防止のためのパトロールを始めたのだとか。
見回りを通じて、本当に死のうと思っている人はほとんどいないことに気付いたという茂氏は「彼らは日没を待って、じっと座って一人シクシク泣いている。みんな、『死んだらいかんよ』と声を掛けてほしいんですよ」と語る。「死ぬ権利だってある」という意見もあるだろう。しかし茂氏は「そんな考えは机上の空論」と否定し、「誰だって死にたくない。自殺は、それでもこれ以上生きていけない、助けてくださいというメッセージなんですよ」と訴えた。
さらに「わしが何とかしてやると、強い気持ちで声を掛けるんです。すると、こんな変なおじさんに任せていいのか、と彼らは調子が狂っちゃう。調子を狂わせることが必要。死のうと集中している人は、ハッと我に返るんです。そういう方は何人もおられました」という茂氏。8年7か月の活動の中で自殺を思いとどめたのは406人。そのうち行政に引き渡した5人は亡くなってしまったといい、「結局は心なんですよ。同情するのではなく、一緒に歩いてあげること。そしてこういう解決方法があるんだとつないであげること。それが大切なんです」と観客に呼び掛けていた。(取材・文:壬生智裕)
映画『カミハテ商店』は渋谷のユーロスペースほかにて全国順次公開