政治的批判にも臆せず!世紀の追跡劇を追ったキャスリン・ビグロー監督
映画『ハート・ロッカー』で女性として初めてアカデミー賞監督賞を受賞したキャスリン・ビグロー監督が、政治的問題に絡み、拷問シーンなどが批判を受けているアカデミー賞有力候補作品『ゼロ・ダーク・サーティ』について語った。
本作は、アメリカの威信を背負うCIA(米中央情報局)のウサマ・ビンラディン追跡チームの、最先端技術による情報収集やアルカイダメンバーへの過酷な拷問、スパイ活動による、911同時多発テロの首謀者追跡の過程をリアルにドラマ化した作品。
ビグロー監督が「自然に再びタッグを組んでいた」と語る『ハート・ロッカー』の脚本家マーク・ボールと手掛けた今作は、ニューヨーク映画批評家協会賞を獲得して高く評価された。ところが、アメリカの大統領選前である10月後半の公開を前に、共和党から本作が、ビンラディンの追跡を要求したオバマ大統領に有利に働く内容だと批判が噴出。配給の米ソニー・ピクチャーズは、大統領選の政治的影響を否定したものの、上映館数を限定しての公開を12月に、さらに全米公開を1月に延期した。
さらに、ビグロー監督が「ヨルダンの刑務所で撮影した」というアルカイダへの激しい拷問シーンに関しても共和党は、オバマ政権がこの映画のために機密情報を漏洩した不正行為を行ったのではないかと訴える。そこで共和党議員ピーター・T・キングはCIAと米国防総省に機密情報漏洩の調査を依頼した。だが、CIAと国防総省文書は、情報公開法の要求の自由を得たことで、特例の情報アクセスが映画製作者に付与されたが、機密情報の漏洩はなかったとしている。
そのほか、映画『遊星からの物体X』などに出演するデヴィッド・クレノンが、反拷問を訴える団体や米国自由人権協会の人々を集め、拷問行為を批判した会合を開いたことも。これに対して米ソニー・ピクチャーズの会長エイミー・パスカルは「『ゼロ・ダーク・サーティ』は拷問を擁護した映画ではない」と主張。そしてビグロー監督も、この映画は10年間のウサマの追跡をわずか2時間の映画に詰め込み、特定の人物の観点で話を展開しているが、それはクリエイティブ上の選択。われわれのリサーチは擁護できるもの」と語っている。
政治的な批判にさらされた本作だが、全米公開後には初週ナンバーワンを記録。さらにアカデミー賞でも作品賞含め5部門にもノミネートされた。果たして本作は、アカデミー賞でも旋風を巻き起こせるだろうか? (細木信宏/Nobuhiro Hosoki)
映画『ゼロ・ダーク・サーティ』は2月15日より全国公開