山田洋次監督、生涯フィルムの決意 デジタル化に憂い
15日、都内・東宝スタジオで山田洋次監督最新作『小さいおうち』の製作会見が行われ、主演の松たか子と倍賞千恵子のほか、吉岡秀隆、黒木華、片岡孝太郎、妻夫木聡、そして山田監督が出席した。山田監督は映画の撮影方式が近年急速な勢いでフィルムからデジタルへ移行していることについて、「発展ではなく合理化」とした上で「僕が生きているうちはフィルムで仕事をしようと思う」と生涯フィルムで映画制作する意向を明かした。
フィルム派の立場を示した山田監督は「フィルムに音がついたりカラーになったりという次元の発展ではなく、むしろ合理化ではないかという思いがしてならない」とデジタル化に肩を落し、理由のひとつとしてこれまでフィルムを手作業でカットしていた編集技師が仕事の場をなくすなどスタッフが削減されていく現状を挙げた。
「腹ただしく思えてしょうがない。デジタルかフィルムかどちらかを選べる状態でどうしていられないのだろうか」とピシャリ。しかし、「フィルムは小予算のプロダクションでは不可能になってきている」と厳しい現実問題にも目を向け「それでも、僕が生きているうちは編集技師や録音技師たちとフィルムで仕事をしていこうと思っています」と決意を語った。
また、同スタジオで現在撮影中の『小さいおうち』では原作者に映画化を熱望する手紙を書いたことを明かし「こんなにもすぐに撮りたいという思いにさせられたのは初めて」と思い入れは強い山田監督。初挑戦となるラブストーリーには「松たか子さんが吉岡秀隆さんのところへ震える胸を押さえながら訪ねるシーンを撮りながら、僕も胸が震えました」と高鳴る思いを明かしていた。
同作は、中島京子の直木賞受賞作を原作に山田監督が初めて手掛けたラブストーリー。昭和の初期に東京郊外の“小さいおうち”で起きた恋愛事件の真実が、60年の時を超えて1冊のノートによりミステリアスにひも解かれていく。
『隠し剣 鬼の爪』(2004年)以来の山田組で、再び吉岡とロマンスを演じることになった松は「急接近する間柄で最初はすごく緊張していました」と明かし、「9年で環境も変わりましたが、その変化をすごく楽しませていただいていています」と充実の表情を見せた。なお、この日は、橋爪功、吉行和子、中嶋朋子、林家正蔵、夏川結衣、小林稔侍ら前作『東京家族』のメンバーが本作の追加キャストとして発表され、1か月かけて製作された“小さいおうち”のセットもお披露目となった。(取材・文:中村好伸)
映画『小さいおうち』は2014年1月、全国公開予定