映画化不可?タナダユキ監督の小説「復讐」は犯罪被害者家族の心情に迫った意欲作
映画『ふがいない僕は空を見た』などで知られるタナダユキ監督が、小説「復讐」を発表し、作品が生まれるまでの経緯や執筆時の思いを語った。
「復讐」は、少年犯罪の被害者遺族と加害者家族のやり場のない心情に迫った意欲作。タナダ監督は「もしこういう事件に遭ったら……と、自分の中で湧き上がる感情に肉付けしました。もともと小説畑の人間ではないから、怖がらずに書けたのかもしれない」と振り返る。
タナダ監督の書き下ろし小説は「ロマンスドール」に続き2作目。映画『ふがいない僕は空を見た』や今秋公開の『四十九日のレシピ』の撮影をしながら約3年かけて執筆し、気付けば263ページの大作になっていた。「映画を作っているときはそっちに気がいって書けないこともありました。待ってくださった出版界の方はなんて辛抱強いんだろうと(苦笑)」。
主人公は、ある事情で東京から北九州へ異動して来た女教師と、その町で10年前に起こった“嫌な事件”の被害者遺族である少年。二人の人生が交錯したとき、過去の記憶と秘密が徐々にあらわになっていくサスペンス劇だ。「幼少時代に姉がつぶやいた『うそついた人間が一人ずつ殺されていったらどうなるんだろう』という言葉が物語の原点。たぶん、そのとき自分はすでに何かしらうそをついていて『やばい、わたし死ぬな』と(笑)。それで記憶に残っていたのだと思います」と笑う。
舞台となった北九州市はタナダ監督の故郷だ。町が誇る戸畑祇園大山笠の壮大な祭りが鮮やかに描かれる一方、公害問題からかつて“死の海”と称された洞海湾の海の色が、事件を予感させる不穏な空気を醸し出す。「別に北九州が嫌いというわけではなく出身地だから言えるんですけど、この町で明るい話は似合わないだろうと(笑)。唯一、祭りが人様に胸を張れる行事で、今回改めて調べたら再発見したことも多かったですね」。
映画ファンとしては当然、映画化を期待したいところだが、タナダ監督は「自分に近いモノがにじみ出ていると思うから、どうなんでしょうか……」と難色を示す。では、他の監督から依頼が来たら? と水を向けると「それは嫌です」ときっぱり。「もし『復讐』を映画化できたら、次に何を撮ればいいのかわからなくなりそうで、それが怖いのかもしれません。それほど自分に親しい作品なので」と語り、小説というわが子への愛情の深さを明かしていた。(取材・文:中山治美)
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