仲代達矢、日本の役者は勉強不足!80歳にして続く日々の鍛錬
小林政広監督の最新作『日本の悲劇』で、自身の余命がいくばくもないことを悟り、自室を封鎖して食事も水も拒否する父親を熱演した仲代達矢が、60年にわたって続けてきた役者業について語った。
現在80歳の仲代は、本作への出演について「これまで1,000本以上のシナリオを読んできたが、こんな作品は初めて。この年で、そういう作品に出会えたことは幸せです」と喜びに満ちた表情を浮かべる。冒頭では、約10分の長回しにも挑戦。「背中を向けたシーンが多かったけど、逆に面白くて楽しかったね!」と少年のように目を輝かせた。
「この役柄を演じるのは全く初めてですから。今までのキャリアだとか、引き出しというのは使えない。だから作品ごとに、とても懸命にやっているんです」と語る仲代。俳優養成所「無名塾」の主宰者でもある彼の目に、若い役者たちはどのように映っているのだろうか。その口からは「わたしを含め、日本の役者たちは、勉強不足です」という厳しい答えが返ってきた。「俳優というものは基礎的修行が必要。アクターズ・スタジオのような有名な養成所があるアメリカなんて、基本的なことをきちんと勉強して、たくさんの競争相手がいる中から出てくるのでレベルが違います」。
最近は歌手やモデルが、突然俳優デビューすることも少なくない。それにも仲代は「人気モデルがある作品に出る。性格や話し方なんかが、その人に合った役柄であれば、役者業は素人だってできます。でも問題はその後です。次の作品になったらどうなるか。勉強もできないうちに、捨てられてしまうことが多いんです」と危惧する。「俳優というのは、訓練しなくてもできるだろうと考える作り手側も問題」という仲代は、「役者にとって一番大事なことは訓練」と繰り返す。「僕は19歳でデビューして、80歳までやってきた。それでも訓練を続けています。修行というのは死語かもしれませんが、やはりプロというのは死ぬまでプロでなければいけないので、ずっと修行を続けてほしいです」。
先日もニューヨークのブロードウェイに足を運び、1週間で6本もの舞台を鑑賞したという仲代は「いや~、その技にはかなわないと思ったよ。もっと訓練しなければ」と笑顔を浮かべる。今もなお、演技への情熱を燃やし続けている80歳の名優が主役を務める本作で、真の「役者」のすごみを感じてもらいたい。(編集部・森田真帆)
映画『日本の悲劇』は8月31日よりユーロスペースほかにて全国順次公開