「アラブ人はテロリスト」というハリウッドのイメージを変えたい アラブ系女性監督の決意
パレスチナのヒップホップシーンを初めてカメラで捉えたドキュメンタリー映画『自由と壁とヒップホップ』の特別試写会が11日、渋谷の映画美学校で行われ、ジャッキー・リーム・サッローム監督が本作の裏側について語った。
イスラエル領内のパレスチナ人地区で生まれた初のヒップホップグループで、アラビア語ラップの先駆者であるDAM。彼らはイスラエルによる占領から生じる貧困、差別といった絶望的な状況をラップで歌うことで、「自由であれ」とメッセージを送り続けてきた。本作は、分離壁や検問所によって隔てられながらも、それぞれの地区で活躍するパレスチナ人ヒップホップグループを集めて音楽フェスを行おうとするDAMの活動を中心に、彼らが抱える社会的問題や複雑な歴史的背景を映し出している。
アラブ系アメリカ人女性であるサッローム監督にとっては、イスラエルに入国するだけでもリスクが大きく、そのことによって本作の製作は困難を極め、完成までに5年という歳月がかかったという。サッローム監督も「壁はいまだにあるし、何も変わっていない」と顔を曇らせる。
しかし、現在はDAMの活躍に影響されて、パレスチナ人のミュージシャンが続々と登場。これについてサッローム監督は「人間というのは抑圧されていればいるほど、よりクリエイティブになる。自分の思いを表現することで彼らはカタルシスを得ているわけで、ラップは彼らに向いていたんだと思う」と分析。また、「カメラが橋渡しとなり、(壁で隔てられた)若者たちの交流が始まった。もちろんわたしがいなくても、彼らはネットを通じていつかは出会っていたとは思うけど、わたしのカメラで少しはそのプロセスを短縮されられたのかもしれない」と作品を振り返った。
さらに「わたしの幼少時代、アラブ人のイメージはネガティブでした。ハリウッド映画でも、アラブ人はテロリストとして描かれてきました」と切り出したサッローム監督。「自分がアラブ系であることを恥じていた時期もありました。でも、政治活動に身を投じていた祖父の影響で、次第にわたしも変わっていきました。今ではアラブ人のステレオタイプのイメージを変革していくことをゴールに掲げて表現活動を行っています」と力強く語っていた。(取材・文:壬生智裕)
映画『自由と壁とヒップホップ』は12月14日より渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開