中国の精神病院にカメラを向けた世界的なドキュメンタリスト、ワン・ビンが来日
世界的なドキュメンタリー作家ワン・ビンが16日、恵比寿の東京都写真美術館で行われた「第6回恵比寿映像祭」の『収容病棟』ジャパンプレミア上映に出席、芥川賞候補にも選ばれた文筆家で演出家の戌井昭人とトークを行った。
「第6回恵比寿映像祭」の『収容病棟』ジャパンプレミア上映に出席したワン・ビン 画像ギャラリー
9時間以上にもおよぶ大作ドキュメンタリー『鉄西区』を2002年に発表して以来、世界的に注目を集めるドキュメンタリストのワン・ビンの最新作『収容病棟』は、これまでカメラが入ったことのない中国の精神病院の内部を映し出す作品。昨年のベネチア国際映画祭でワールドプレミアされ、今回が日本初上映。237分、およそ4時間近い上映時間の本作を鑑賞したばかりの観客からは自然と拍手が沸き起こった。
本作の舞台となる雲南省の精神病院には、男女の患者200人以上が生活。人を殺し、法的に精神異常と見なされた者、薬物中毒やアルコール中毒といった者だけでなく、政治的陳情を行った者や一人っ子政策違反者などまでもが、常軌を逸した振る舞いを理由に収容されている。そんな精神病院に興味を持ったきっかけを「2002年の秋、『鉄西区』の編集が終わって疲れたので、気晴らしに北京の郊外に出かけたら、精神病院があった。そこは神秘的で、門は開いていたのに、誰の姿も見えない。表面からは分からなかったが、そこは封鎖されていて、患者さんがそこに閉じ込められていたんだ」と切り出したワン・ビンは「彼らの戸籍は、自分の家ではなく、病院に移されていた。それはつまり病院から永久に出られないということを意味すると聞いて、興味を持った。それから一度は企画がとん挫したんだけど、2012年に雲南省の病院からの撮影許可が降りた。そして2013年正月に撮影を開始した」と述懐。
精神病院を舞台としているが、本作では、食べ、眠り、排泄し……、といった人間の基本的な営みが淡々と描かれる。「病院で撮るということに初めは緊張したが、それもだんだん慣れてきて、病院にわたしがいるということが日常となりました。わたしはリラックスしながら、彼らの普段通りの日常生活を撮ったわけです」と解説するワン・ビンに戌井も「映画を観ているのではなくて、自分たちも病院の中にいるような、体験している感じがしました」と感心した様子を見せた。(取材・文:壬生智裕)
映画『収容病棟』は6月より渋谷のシアター・イメージフォーラムほかにて全国公開