世界的ピアニスト、マルタ・アルゲリッチを母に持つ女性監督、母への思いを語る
クラシック界における偉大なピアニスト、マルタ・アルゲリッチに実の娘がカメラを向けたドキュメンタリー映画『アルゲリッチ 私こそ、音楽!』プレミア上映会が3日、東京国際フォーラムで行われ、マルタの娘のステファニー・アルゲリッチ監督、エッセイストの小澤幹雄がトークショーを行った。
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映画上映後に登壇したステファニー監督は「日本には、小さい頃から何度も母に連れられてきました。幼児の頃、わたしが初めて歩いたのは日本だったそうです。日本はそれだけ思い出の深い特別な国です」と笑顔であいさつ。
インタビューに応じることはまれで、世界中のジャーナリストたちが取材を熱望するというマルタ・アルゲリッチ。そんな母にカメラを向けた理由として、「わたし自身が子どもを産んで、母親になったことが大きい。老いていく両親、新しい生命を目の当たりにして、これは早急にやらなければいけないことだ、という衝動に駆られた」と語るステファニー監督。本編中ではステファニー監督が、「子どもの頃は、なんで母はサイン会などのファンサービスに時間をかけるのか分からず食ってかかったことがあった」と語るひと幕もあったが、「娘だったときは、母を批判的に見ていた。しかしわたしが母になると批判的な視点が軽減されて、別の視点で見られるようになった」と心境の変化を吐露。
「この映画が封切られたら、みんなビックリすると思う。カメラに写るマルタはパジャマ姿で、化粧もしていないし、髪もボサボサ。今までは近寄りがたい印象だったが、親しみを感じるようになりました」と笑う小澤。くしくもこの日、同じ東京国際フォーラムで開催されるコンサートにマルタが出演することになっており、このトークショーに一緒に登壇してくれないかとマルタに打診したというが、「おなかが痛いから」と言って断られたことを明かし、会場を笑いに包んだ。
この映画を観たマルタからは「修正を要求されることはなかった。演奏者として真実に向き合おうというアプローチをしている人なので、わたしが真実にアプローチをしているという姿勢を理解していたんだと思う」と振り返ったステファニー監督だったが、ただ1点だけ、「パジャマは赤いものを着ておけばよかった」という不満点を漏らしていたことが明かされると、会場は大いに沸いた。(取材・文:壬生智裕)
映画『アルゲリッチ 私こそ、音楽!』は今秋より公開