音楽が認知症患者を変えた?サンダンス映画祭観客賞受賞の話題作とは?
今年のサンダンス映画祭で観客賞を受賞した話題のドキュメンタリー作品『アライヴ・インサイド(原題) / Alive Inside』について、マイケル・ロサト=ベネット監督と社会福祉士ダン・コーエンが語った。
本作は、老人ホームに勤める社会福祉士ダン・コーエンが、ある日「認知症に苦しむ高齢患者の過去の感情を音楽で呼び起こし、記憶を取り戻せないか」というアイデアから、高齢患者が好きな曲をイヤホンで聴かせ、脳を刺激して人が持つ治癒能力を高めていく過程を実証したもの。
ダンが認知症患者に音楽を聴かせたきっかけは「2年前に英国のチャーチル・フェローシップ(奨学金)を受けた女性が、認知症の最高の治療を研究するために10週間米国を訪問し、その間に米国の40か所の認知症のプログラムを視察したんだ。その結果、彼女は、米国で認知症は初期~中期症状についてはさまざまな対応がされているが、末期症状になると薬に頼り、意味のある活動が行われていないと報告した。そして彼女は『末期症状の患者に意味のある対応は音楽である』とも語っていた」と答えた。ダンはその影響を受け、具体的に試すことにしたそうだ。
ところが、老人ホームでは音楽の視聴が簡単には承諾されなかった。「僕の撮影参加当時は、ダンはもともと関わっていた二つの老人ホームだけで音楽を聴かせていて、そこでは素晴らしい結果を残していた。だがその他の老人ホームでは、音楽の使用が末期患者には耐えられるものではないなどの理由で、許可が下りずに壁にぶつかっていた。そこで僕らはmusicandmemory.orgというサイトを立ち上げ、認知症の末期患者が音楽を聴いているビデオを載せて、老人ホームのスタッフにも興味を持ってもらうアプローチをしたんだ」とマイケルは語った。
昔と現代の家族の認知症への対応の変化について、マイケルは「僕がフィラデルフィア南部で育ったときは、隣に認知症のおばあちゃんが居て、彼女の7人の子供たちはすぐ近くに住んで面倒を見ていたから、子供たちはそれほど苦労していなかった。だが今の環境では、子供は自分の生活を親と切り離し、自分たちの生活が両親の世話より先立っているケースが多い。だから、僕とダンは全米バスツアーを行って、そのツアーで人々の認知症に対する姿勢を改善したいとも思っている」と意欲的に答えた。
映画を通して、音楽は末期の認知症患者に最適な治療法に思え、今後世界中で注目される可能性があると感じた。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)