元NHKアナ、原発報道の自主規制に憤慨!
東京電力に翻弄(ほんろう)されながら、それでも生きていこうとする家族の姿を4世代にわたって描いた映画『あいときぼうのまち』公開記念トークイベントが24日、テアトル新宿で行われ、ジャーナリストの堀潤、元東電社員の蓮池透、そして本作の脚本を務めた井上淳一が登壇し、「サラリーマン化し、思考停止に陥っている既存マスコミ」といったテーマで白熱の議論を繰り広げた。
福島県出身の菅乃廣監督と井上が手掛けた本作は、1945年に学徒動員でウラン採掘が行われていたという出来事を皮切りに、1966年に原発建設をめぐって反対運動が潰される様子や、福島第一原子力発電所の事故をもたらした2011年の東日本大震災といった約70年間にわたる出来事を通じて、福島に住む家族の人生が原子力政策に左右されるさまを描き出している。
会場に現れた井上は「この映画は東電を描いているので、なかなかマスコミでは取り上げられません。やはり皆さまの口コミが大切なので、よろしくお願いします」と観客に呼び掛けた。
元NHKアナウンサーとして知られる堀は、古巣であるNHKの雰囲気を「数年前から局内の人事が、財界に近い記者に置きかわって、何となく表現に気を使うようになり、ネタの扱い方も気を付けなさいという空気になってきた」と感じていたそうで、原発問題を取り上げたドキュメンタリー番組についても、「そういうことをやられては困る」と職員自身が自主規制してしまうような空気が広がってしまったことに憤慨。そういった流れからNHKを退社することになったという。
しかし「メディアの世界でも同じ思いを持つ人材は多かった」と切り出した堀は「うちのこの枠は使えるから一緒にやろうとか、この枠はスポンサーが付いていないからやりましょうと言ってくれる人がいて助けられましたね」としみじみ。
最後に井上は「この映画の上映は明日で終わりで、明日から地方で公開されますが、また東京に戻って上映したいと思います」と決意を明かし、その意欲的な言葉に会場からは力強い拍手が湧き起こった。(取材・文:壬生智裕)
映画『あいときぼうのまち』はテアトル新宿ほか全国順次公開中