吉田大八監督は勘違い女の映画ばかり撮っている?
大ヒット映画『桐島、部活やめるってよ』(2012)で第36回日本アカデミー賞最優秀監督賞、最優秀作品賞を受賞し、11月に最新作『紙の月』の公開を控える吉田大八監督が15日、東京・Apple Store,Ginzaで行われたトークイベント「Meet the Filmmaker」に登場した。
『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(2007)で長編映画デビューした吉田監督は、大学卒業後はCM制作会社に入社し、20年間、CMディレクターとして働いた経歴を持つ。「学生時代に映画を撮っていたけれど、職業としての映画監督になろうとは、まったく思っていませんでした。CMの仕事がむしろ肌に合っていた」と気鋭の監督にしては、意外な発言。「ただ旅先で『腑抜けども~』の本谷(有希子)さんの原作を読んだとき、読み終わった段階で、頭の中に映画が一本出来上がっていて、これをどう映画にすればいいか自分は知っている、という感覚だった」と話す。
『腑抜けども~』はカンヌ国際映画祭の正式招待作品に。その後の『クヒオ大佐』(2009)、『パーマネント野ばら』(2010)は「勘違いする女性がテーマ」とよく指摘されるという。「自分は一本一本、違うことに挑戦しているつもり。でも周囲は『監督らしい作品ですね』と言う。自分には女性に対する恐れみたいなものがあるのかも。でも僕がやろうとすることと、観た人の受け取り方は違って、観た人の感想が、その映画の総体を作るんだと『桐島~』で知りました。『桐島~』の映画化の話が来たときは、映画にする手がかりが自分にまったくなくて、どうして僕にと、正直後ろ向きでした。主人公2人の出会いの場所がよりどころになるとわかって、初めて作品になる気がした」と撮影時の苦労を明かした。
新作について「これも女性の映画ですね」と吉田監督は言いながら「宮沢りえさんの顔の変化に注目してください。僕は何気なく撮っていたけれど、編集でシーンをつないだとき、宮沢さんが顔つきの変化でストーリーを導いているのがわかって、びっくりしました。スタッフに『今頃何を言っているんですか』って笑われましたが」と笑顔を見せた。
『紙の月』は、角田光代の同名小説を基に、銀行で働く平凡な主婦(宮沢)が、不倫の末に起こす巨額横領事件をサスペンスたっぷりに描いた物語。23日から開催される第27回東京国際映画祭コンペティション部門に唯一選出されている邦画作品でもある。(取材・岸田智)
映画『紙の月』は11月15日より全国公開