仲代達矢、82歳となった今も「30作品くらいやりたい作品がある」
俳優の仲代達矢が31日、渋谷のユーロスペースで行われた映画『仲代達矢「役者」を生きる』の初日舞台あいさつに稲塚秀孝監督と出席し、自身の役者人生について語った。
本作は、黒澤明、小林正樹など、映画史に残る巨匠たちの映画に数多く主演した名優・仲代達矢に密着したドキュメンタリー。観客の前に立った仲代は「昨年の12月13日に82歳になりました」とあいさつ。会場の大きな拍手を受けると「むざむざと老いぼれ役者がまだ現役でやっております」と照れくさそうな顔を見せた。
仲代の出演舞台の裏側に密着した本作について「調理人が調理場を見せるのはどうか」と思っていたという仲代だったが、「わたしの役者人生がいつ終わるかと考えていたときに、稲塚さんから撮影してもいいかと聞かれました。彼とは今までも協力し合っていい作品を作ってきたので『いいよ』と。どうぞうちでも稽古場でも撮ってくださいと。わたし自身はちょっと恥ずかしい気がするが、こういう役者がいたということを観ていただければ」と呼び掛けた。
劇中には、仲代がセリフを覚えるために、筆を使って台本を1枚1枚書き写し、その紙を壁一面に貼るというユニークなスタイルが映し出される。「生来、わたしは不器用な役者でして。若い頃からセリフ覚えが早くない。ですからああいう形でやっておりますが、あるとき日生劇場で『ハムレット』をやったときに観に来たお手伝いさんから『あ、トイレのセリフだ!』と言われたこともありましたね」と語り、会場を笑わせた。
俳優養成所「無名塾」を主宰し、若者の育成に力を入れてきた仲代は、本作について「次世代の役者に観てもらって、老いぼれもこんなに頑張っているんだぞと伝えたい」と切り出すと、「映画でも演劇でも、お客さんを呼べるような、来てよかったなと思わせるものを作らないと廃れてしまう。だからこそ次世代に受け継いでもらいたい」と期待を込めて語る。
「残念ながら、僕の頭の中には30作品くらいやりたい作品がある」という仲代は、一人芝居や白石加代子とのリーディング劇などの予定をアナウンスしつつ、「どうして年をとってもしんどいことやるかなと。多少マゾというかね」とちゃめっけたっぷりに笑った。(取材・文:壬生智裕)
映画『仲代達矢「役者」を生きる』は公開中