『アメリカン・スナイパー』と傑作西部劇の共通点 オスカー候補ブラッドリー・クーパーが語る
名匠クリント・イーストウッド監督が、イラク戦争において160名以上の敵を射殺した狙撃手クリス・カイルの自叙伝を映画化した『アメリカン・スナイパー』。日本時間23日に結果が明らかになる第87回アカデミー賞では、作品賞や主演男優賞を含む6部門でノミネート。本国アメリカで空前のヒットを記録中の本作について、製作と主演を兼任したブラッドリー・クーパーが記者会見で思いを語った。
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実在した狙撃手とその家族の苦悩に迫る一方で、クリスとイラク側のスナイパーとの対決など、西部劇を思わせる展開も目を引く本作。ブラッドリーは、「僕らは西部劇の構造でこの作品を作った。腕利きのガンマンがいて、敵側にも腕利きのガンマンがいて、最後に、見せ場的にその撃ち合いがあるというね」とその影響を認める。
さらにブラッドリーは、イーストウッド監督の傑作西部劇『許されざる者』と『アメリカン・スナイパー』のどちらにも、人を殺すことの罪深さを語るシーンがあると証言。「だから、『許されざる者』と共通している部分はすごくたくさんあると思う。クリントとも、その話をしたのを覚えているよ。僕らはこの2本の映画に多くの共通点を見出した。例えるならクリスは、『許されざる者』に至る前の(イーストウッドが演じた主人公)マニーのようなものだと思うんだ」。
そのイーストウッド監督と本作で初タッグを組んだブラッドリーは「彼は、今世紀で最高の監督とすら言えると思う」と称賛。映画のモデルになったクリスも、自身の作品を「イーストウッドに監督してもらいたい」と言っていたという。
そのクリスを演じるべくブラッドリーは、3か月に及ぶトレーニングを敢行。クリスが所属したアメリカ海軍特殊部隊ネイビーシールズとの訓練にも参加したというブラッドリーだが、何よりも大事だったのは、「どのようにライフルを持って、発射するのかを学んだこと」だったという。「映画の冒頭、幼い子供と母親に銃口を向けるシーンの撮影で、初めて現場で銃をのぞいたとき、その先に二人の俳優の姿が見えると、それだけで体中と胃が痛くなってしまった。もちろん、銃に弾丸は入っていなかったけど、僕は、『俳優が見えていると、このシーンの撮影はできない』と言った。その瞬間、兵士たちが戦場で一体どんなことを克服しなくてはいけないのかということを、一瞬だけ垣間見たような気がしたんだ」。
一方、国際的な関心も強いイラク戦争をテーマとしたことについては「僕はこの映画で、イラク戦争について学んでほしいとは全く思っていない」と断言。「それよりも、クリスのような一人の人間が、兵士として戦場でどのようなことを経験しなくてはいけないのかを描いた映画だと思っている。そこでのジレンマや恐怖、内面の葛藤、家族との摩擦……この映画で描きたかったのはそれだけで、政治的な作品ではないんだ。可能なら観た人々が、イラク戦争がどういうものだったのかということではなく、戦場で兵士がどのような葛藤を経験するのかを知ってもらえればうれしい。僕らがやろうとしたのは、ある人間を誠実に描くこと。そうすることで、この映画を観た人が誰か、これまで知らなかったようなことを得ることができたらいいなと思っているんだよ」。(編集部・入倉功一)
映画『アメリカン・スナイパー』は全国公開中