塚本晋也監督『野火』新人俳優・森優作 戦争を疑似体験して意識が変わった
塚本晋也監督『野火』に出演した新人俳優・森優作がインタビューに応じた。第2次世界大戦末期に、フィリピン・レイテ島に取り残された日本兵たちの死闘を描いた本作で、森は主演の塚本監督やリリー・フランキーらと行動を共にする若い兵士・永松を演じている。抜てきされる決め手となった、劇中での粗野な姿と草食系の見た目のギャップが印象的で、今後注目俳優の一人となりそうだ。
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森が俳優の世界に入ったのは、わずか3年前。もともとは通訳を目指して留学も経験したが、成績が思った以上に振るわずに断念した。目標を失って空虚な日々を送っているときに友人に誘われたのが芝居の世界。「面白いことをやっている大人たちがいる」と興味を抱き、舞台の端役や、古厩智之監督『「また、必ず会おう」と誰もが言った。』(2013年)に出演した。ただ、「役者をやっているという感覚はなかったです」という。
そんな森を覚醒させたのが、塚本晋也の名も、大岡昇平の原作小説も知らずに受けた『野火』のオーディションだった。そして待っていたのは、飢餓状態の兵士に見えるようにするための5キロの減量と日焼け。色白の森は、日焼けサロンの力を借りた。そしていざ撮影に入るや、塚本監督の要求にうまく応えることができない自分がいて、悔し涙で枕をぬらしたこともある。森は、「下手クソで当たり前なんですけどね」と当時を振り返る。
さらに、戦争を疑似体験したことで意識が変わった。小学校で受けた戦争教育は単なる義務で、戦争映画を観てもカッコイイとさえ思っていた。しかし劇中の人を殺害する場面で、「怒り」という予期せぬ感情が湧き起こったことに驚き、動揺したことが忘れられないという。「ISIS(イスラム過激派組織)には同年代の子が参加している。 戦争を知らない世代がそっちへ向かおうとしていることを実感します。撮影後も、自分が戦場に放り込まれたら? と考えるようになりました」と話す。
塚本監督は本作で、3月25日にマカオで開催される第9回アジアン・フィルム・アワードで監督賞にノミネートされた。セレモニーには仕事で参加できない塚本監督に代わり、森が出席する。本作で海外を旅するのは、昨年秋のベネチア国際映画祭に続いて2度目。「通訳になって国際人になりたかった」という森の夢は今、別の形で実現することになりそうだ。(取材・文:中山治美)
映画『野火』は7月25日よりユーロスペースほか全国公開