今は亡き天才漫画家が「世紀末のおもちゃ箱」と批評!原作者が伝説のカルト映画『帝都物語』の裏話を明かす
1980年代を代表する伝奇スペクタクル超大作『帝都物語』『帝都大戦』のブルーレイ化が決定し、原作者の荒俣宏が映画の魅力や舞台裏を明かした。
『帝都物語』は、平将門の怨霊を呼び覚まし、帝都・東京の破壊をもくろむ加藤保憲と、彼を阻止すべく立ち上がった人々の物語。明治から昭和を背景に、実在の人物を絡めつつ壮大なドラマが展開する。「20世紀末が近づき、昭和も終わろうとしていた時代の空気が、帝都崩壊の物語に合っていた」という本作は、当時、某天才漫画家が「世紀末のおもちゃ箱」と評した。荒俣は「世紀末のフィナーレとして小説を書いたので、そんな感想がうれしかった」と振り返る。
バブル絶頂期、製作費18億円を投入した『帝都物語』。現場を訪れた荒俣の記憶に今も残っているのが、巨大なオープンセットだ。「昭島市に当時の銀座を再現したんです。その出来も素晴らしかった」と懐かしむ。一方、太平洋戦争中が舞台の『帝都大戦』の原作には某一派が米国のルーズベルト大統領を呪い殺そうとするくだりがあったが、「映画では戦後の同盟関係を配慮して標的をドイツのヒトラーに変えたのだとか」と経緯を明かした。
『帝都物語』『帝都大戦』の最大の魅力は、当時新人だった嶋田久作演じるダークヒーローともいうべき、加藤保憲のキャラクターにある。荒俣が原作を執筆した当時は、アーティストの立花ハジメを想定していたそうで、「彼(立花)のイメージをデフォルメしたのが加藤。映画化が決まって初めて嶋田さんに会ったときには、本物の加藤がいると思った」と笑う。興味深いのが、「加藤は純粋な日本人ではない」という事実。「日本人のルーツは、さまざまな人種の中で勝ち残った人たち。その裏には国から疎外された人種が大勢いる。加藤はそんな、いわば“負け組”の怨念の集合体」とキャラクターに込めた思いを語る。
さらに公開から25年以上を経た今、『帝都物語』を観る面白さについて尋ねると、荒俣は「勝新太郎さんや西村晃さん、坂東玉三郎さんといった配役が豪華。佐野史郎さんをチョイ役で起用したりとぜいたくですよね」キャストを挙げた。さらに、「クラシックでありながら仕掛けに凝る。夜空の月を落ちてきそうなくらい巨大に撮るなど、実相寺ワールドが全開」と実相寺昭雄監督の映像世界をたたえた。実相寺監督とは前日譚(たん)の企画も温めていたそうで、「その途中で亡くなられたのでわたしも少し心残りだったんです。今も、彼ならどう撮るかを念頭に、新企画を空想したりします」と続編への意欲ものぞかせた。(取材・文:神武団四郎)
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