学校で教師が兄を殺す話をしていた…インドネシア大量虐殺の加害者を被害者遺族が取材する衝撃作の内幕
1960年代のインドネシアで起きた100万人規模の大虐殺の爪痕を、加害者の視点から描いた衝撃のドキュメンタリー『アクト・オブ・キリング』から1年後、続編と呼ぶべき姉妹編『ルック・オブ・サイレンス』が完成。来日したジョシュア・オッペンハイマー監督が、8年間に及んだ製作過程と2本の映画が世界に及ぼした影響を語った。
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『ルック・オブ・サイレンス』の中心となるのは眼鏡技師のアディさん。虐殺事件で兄のラムリさんを殺されたアディさんは、無料検眼という建前で、現在も英雄扱いされている加害者を訪ねて回る。オッペンハイマー監督は「アディは取材の初期に出会い、『被害者は報復を恐れて当時を語れない、加害者側に話を聞いてはどうか』と提案してくれた人物。ただ『アクト・オブ・キリング』で撮影した映像を見てもらっているうちに、彼から加害者と直接話をしたい、撮影してほしいと提案を受けた」と新作の成り立ちを明かす。
『アクト・オブ・キリング』では蛮行を自慢話として語った加害者側が、本作ではアディさんの正体を知るや「政治の話はしたくない」「昔を掘り返すな」と罪悪感を覆い隠すような対応をするのが印象的。とりわけ加害者の娘が「父を許してあげて、これからは仲良く家族付き合いをしましょう」と強引に場を収めようとする姿は、矛盾を突き付けられた人間のリアクションとして興味深い。
兄を殺した加害者側に対して、アディさんはあくまで冷静な態度で接しようとするが、監督いわく「アディは柔らかな態度で対話すれば、加害者にも道徳的な観念を持ってもらえると信じていた」からだという。そして、映画では描かれないが「アディの兄弟は学校で、教師たちがラムリを殺す話をしているのを聞いていた。彼らは家族を殺した教師が教える学校に、翌日も通わなければいけなかったんだ」と撮影中に判明した新事実も語った。
インドネシア政府は今も虐殺事件を肯定しており、オッペンハイマー監督は入国できない状況だが、『アクト・オブ・キリング』の中心人物で殺人部隊のリーダーだったアンワル・コンゴ氏とは今も連絡を取り合っているとのこと。「あの映画でアンワルは確かに変わった。人権活動家に変身したわけじゃないけれど、虐殺を起こす母体となったパンチャシラ青年団も脱退したんだ」。
『ルック・オブ・サイレンス』はインドネシア国内でも話題になり、アディさんのような被害者が表立って声を上げる契機になるなど長年にわたるタブーは打ち破られつつあるという。また、この2作品の反響のおかげで5年分の活動の助成金が下りたそうで、オッペンハイマー監督は「僕のやり方だと10年は持ちそうだから、まだまだ映画を作り続けるよ」と今後の抱負を笑顔で語った。(取材・文:村山章)
映画『ルック・オブ・サイレンス』は7月4日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開