ベネチア映画祭で金獅子賞を獲得!感性が独特過ぎる不条理コメディー
映画『さよなら、人類』で第71回ベネチア国際映画祭金獅子賞(最高賞)を受賞したスウェーデンの鬼才ロイ・アンダーソン監督が、自身の独特な作風などについて語った。同作は『散歩する惑星』『愛おしき隣人』に続くリビングトリロジー(人間についての3部作)の最終章となる不条理コメディーだ。
本作では、面白グッズを売り歩くセールスマンのサムとヨナタンを軸に、ワインを開けようとして心臓発作で死ぬ夫とそれに気づかない妻、天国に持っていくために宝石の入ったバッグを離さない臨終の床の老女、ダンスレッスンを受けに来る若い男の生徒に恋するフラメンコ教師など、何をやってもうまくいかない人たちの悲しくもおかしな人生が描かれる。
広い構図で固定カメラによる1シーン1カットという独自のスタイルを貫くアンダーソン監督は、そのインスピレーションを絵画から得ていると明かす。「青いリンゴを持っている女の子の絵があったんだ。その絵には、ただ女の子が描かれているだけじゃなく、彼女の部屋まで描かれていたのが良かった。彼女のいる環境も描かれていたことで、彼女がどういう人間なのかより深く理解できたんだ」と最近購入したアートの本から得たインスピレーションを例に挙げながら、人物をアップにしてしまうとその人物がよくわからなくなることが広い構図を好んで用いる理由だと説明した。
本作のカメラワークが独特なのは、ほとんどのシーンにおいて、開けられたドアやガラスの窓越しに別のストーリーが進行していることだ。「ストーリーにはパターンがあって、こうなるなっていうのがだいたいわかる。だから各シーンの中にストーリーを同時進行させることで、どのストーリーが一番大事なのかをわかりにくくさせたかった」と観る人によっていろいろな解釈ができる構成になっていることを明かした。
また、本作には人間の本質を見事に表すシーンがある。歴史上の人物、スウェーデン国王カール12世が率いる騎馬隊が現代のバーに立ち寄るなど、時代を超えたシーンを並列することで、時代が移り変わっても、変わらない人間の本質を伝えたかったと言う。とりわけ、アフリカの囚人たちがイギリス兵らによって、火にかけられたシリンダー状のオルガンに入れられるという残虐な描写は、ユーモアにあふれる本作において、一際異彩を放っているが「このシーンを観て、昔の人はひどいと思うかもしれない。でもよく考えてみれば、現代でも低賃金で酷使されている人などがいるわけだ。形が変わっただけで、僕たち人間のやっていることはあまり変わっていないのではないかと思う」。
本作では冒頭で3人の人物が三者三様の死を迎える。「人間にとって死は恐怖だと思う。だからこそ冒頭で、それを覆すかのように面白おかしく死を表現したかった。ワインを開けるといった単純なことでも死はやってくるものなんだって」とちゃめっ気たっぷりに語るアンダーソン監督は、最後に「特にイタリアのワインボトルの栓が開けにくいよ」と笑顔で付け加えた。(編集部・石神恵美子)
映画『さよなら、人類』は8月8日よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開