八千草薫、故・岡本喜八監督がつないだ縁にしみじみ…湯布院映画祭に初参加
女優の八千草薫が27日、大分県由布市で開催中の第40回湯布院映画祭特別上映作品『ゆずり葉の頃』シンポジウムに、中みね子監督と共に出席した。
公私にわたって、映画監督の故・岡本喜八さんを支えてきた中監督が、76歳(撮影時)にして初メガホンを取った本作。過去を封印して生きてきた女性(八千草)が、思い出の絵を捜す旅を通して人生を見つめ直すさまを描き出す。湯布院に初登場となった八千草は、大勢の観客を前に「シンポジウムに参加するのは初めて。緊張しています」とはにかみながらあいさつ。
一方、本映画祭を訪れるのは、製作を務めた『キッドナップ・ブルース』(1982年)で参加して以来だという中監督は、辛口で知られる湯布院の観客を前に「もう湯布院にだけは行くまいと思っていたのですが、大好きな美女(八千草)が一緒に来てくれるということでやってきました」と語り、会場を沸かせた。
中監督が八千草を想定して書いたという本作の脚本だが、八千草本人は「何で、わたしで書いてみようとおっしゃったのかしら」と不思議に思っていたという。それに対して中監督は、「実は(八千草の夫で映画監督の)谷口(千吉)先生が、彼女のために大事にとっていた原作(一色次郎の『青幻記』)があって。八千草さんの大ファンだった喜八もそれをすごく観たがっていたんです」と切り出すと、「でもいろいろな事情があって、映画化は難しくて。そこで別の監督(成島東一郎)に権利を譲ってしまった」と述懐する。
当時それを知った岡本さんは「八千草さんでやると言ったじゃないですか!」と激怒したといい、谷口さんも「そこまで言うならお前がやれ!」と大げんか。中監督によると、それ以来、岡本さんは八千草主演で映画を撮りたいと思い続けていたのだという。
「最近までその話は知りませんでした」という八千草は「だから(中監督は)わたしと仕事をしませんかと言ってくれたんですね」としみじみ。さらに、そんな経緯を経た本作の台本を「詩集を読んでいるようで、読み物としてすごく気持ちよかった」と評すると、中監督は「わたしたちの世代が作る映画って介護だとかそんなのばかり。1本くらい、外国映画みたいなものがあってもいいと思った」と付け加え、笑顔を見せた。(取材・文:壬生智裕)
第40回湯布院映画祭は8月30日まで由布市の湯布院公民館ほかにて開催中