チェルノブイリ原発事故の真相を探るサンダンス映画祭審査員賞のドキュメンタリー
今年のサンダンス映画祭ドキュメンタリー部門で審査員賞を受賞した話題作『ザ・ロシアン・ウッドペッカー(原題) / The Russian Woodpecker』について、ウクライナのアーティスト、フョードル・アレクサンドロヴィッチとチャド・グラシア監督が語った。
本作は、4歳の時にチェルノブイリ原子力発電所事故に遭ったウクライナのアーティスト、フョードルが、事故は旧ソ連時代に膨大な費用で建造された軍用レーダー The Duga-3 の存在を隠蔽(いんぺい)するために、旧政府が引き起こしたのではないかと仮説を立て、その真相に迫ったドキュメンタリー。
個性的なフョードルについて、グラシア監督は「キエフで上演した僕の舞台で、フョードルはプロダクション・デザイナーとして衣装、照明を担当した。そのリハーサル時から彼は The Duga-3 の話をし始め、チェルノブイリ近くの The Duga-3 を訪れることを勧めてきた。彼と話すうちに、 The Duga-3 が旧ソ連の軍用レーダーで、冷戦下で稼働していたことを知り、最初はそれを短編として製作する予定だったが、研究するうちに長編になった」と明かした。
The Duga-3 の大きさについて、フョードルが「おそらく全体の長さは1キロメートルで、高さは150メートルある」と答えると、グラシア監督は「この The Duga-3 は、これまで建造された軍用レーダーのうち最も大きなものの一つで、予算も最も掛かったとされるが、ほとんどの人はその存在を知らない。実際に、この The Duga-3 を建造した人たちを捜して質問したが、何も詳しいことは語らなかった。ただ、一般の人に知られていない理由は、チェルノブイリ原発付近にあり、放射能汚染のため立ち入り禁止区域だからだ。だが、フョードルに『それは問題ない、チェルノブイリ原発事故と The Duga-3 には何らかの関連性がある』と言われた」と語った。
映画の内容についてグラシア監督は「今作では、ウクライナの過去100年の歴史、チェルノブイリ原発事故、フョードルの人生と彼の家族がいかに旧ソ連下で困難な生活を送ったか、さらにフョードルの夢の世界も描いた。フョードルは典型的なドキュメンタリー作品に関わることを嫌い、彼の夢が僕に彼の内面をのぞかせてくれた」とさまざまな観点からつづったことを語った。
映画では、フョードルの仮説の真相を掘り下げていくうちに、旧ソ連に対して疑問を持ち始めていく。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)