ナチス収容所の死体処理部隊が撮影した70年前の写真公開 GG賞ノミネートの衝撃作
1944年、アウシュビッツ収容所で同胞のユダヤ人の死体処理に従事した特殊部隊ゾンダーコマンドに焦点を当てた衝撃のドラマ『サウルの息子』。本作を製作するにあたり監督のネメシュ・ラースローが影響を受けたというアウシュヴィッツ内の写真が公開された。本作は第68回カンヌ国際映画祭コンペティション初出品にしてグランプリを獲得し、昨夜(日本時間)発表された第73回ゴールデン・グローブ賞の外国語映画賞候補に入った。
ゾンダーコマンドの実際のメンバーが当時、収容所内で撮影した写真に写っているのは、彼らがガス室で殺されたユダヤ人たちの死体を野外焼却溝で処理する様子。この写真は、フランスの哲学者、美術家のジョルジュ・ディディ=ユベルマンの著書「イメージ、それでもなお アウシュヴィッツからもぎ取られた四枚の写真」に収められている。
ナチスがユダヤ人の死体を「部品(パーツ)」と呼んでいるように、本作で描かれるのは収容所という名の“死体生産工場”の実態だ。主人公サウルと同じくハンガリー系ユダヤ人で、祖先をアウシュヴィッツで殺された監督はこれらの写真が「大量虐殺を証言し、物的証拠となり、根源的な問いかけをしている」と言い、「死や残虐さに直面したとき、どんな視点をとるべきか? 我々はこれを、サウルが収容所内を旅する間、突然、ほんの一瞬だけ、虐殺の光景を構築することに参加するという形で、映画の中心部分に入れ込んでいます」と映画と密接な関係にあることを明かした。
冒頭、ガス室に送られながらも一命を取り留めた幼い少年が、ナチスによってあっけなく殺される痛ましいシーンから幕を開ける本作。丸裸にされて次々にガス室に送られ、時には火炎放射器や銃撃といった残虐な手段で殺されていくユダヤ人たち。そして、サウルをはじめほんの数か月の延命と引き換えにナチスの手足となるゾンダーコマンドたちも、明日は我が身かもしれない恐怖におびえ続けている。劇中でサウルは突如、命の危険を顧みず自らにある使命を課すが、それは何を意味するのか。祈りなのか、贖罪なのか。そこに「サバイバルやヒーローのストーリーとして作られてきた収容所の映画」に抗う監督のメッセージが込められている。(編集部・石井百合子)
映画『サウルの息子』は2016年1月23日より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国公開