ハリウッド映画に飽き?中国の2015年興収で過去10年最低の割合に
米国に次ぐ世界第2位の規模として、その急成長ぶりが注目されている中国の映画市場。ハリウッドは近年、大きな利益が望める中国の観客にすり寄る映画作りに躍起になっているが、そろそろ、SF、アクションなどの大作映画の乱れ打ちから、方向転換を迫られる時期にさしかかっているようだ。
中国の新聞・出版やラジオ・テレビ・映画を管轄する国家新聞出版広電総局によると、2015年の中国における映画の総興行収入は440億6,900万元(約7,932億円、1元=18円計算)に上り、前年比48.7%増という大幅な伸びを記録した。このうち、中国映画の割合が過去10年で最高の61.58%に達する一方で、外国映画の割合は最低に。中国で公開される外国映画のおよそ9割がハリウッド映画だが、盛り上がりを見せる中国映画人気と反比例して、中国人のハリウッド映画に対する「飽き」が表れ始めた結果となった。
まず、中国の大手ポータルサイト「捜狐」が発表した2015年の興行収入上位10本を見てみよう。(★が中国映画)
1位★『捉妖記』(英題:Monster Hunt) 24億3,800万元
2位 『ワイルド・スピード SKY MISSION』 24億2,600万元
3位★『港冏』(英題:Lost in Hong Kong) 16億2,000万元
4位 『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』 14億6,500万元
5位★『夏洛特煩悩』(英題:Goodbye Mr.Loser) 14億3,900万元
6位 『ジュラシック・ワールド』 14億2,000万元
7位★『尋龍訣』(英題:The Ghouls) 13億1,800万元 ※公開中のため暫定値
8位★『煎餅侠』(英題:Jian Bing Man) 11億5,900万元
9位★『澳門風雲2』(英題:The Man From Macau 2) 9億7,200万元
10位★『西遊記之大聖帰来』(英題:Monkey King: Hero is Back) 9億5,600万元
上位10本に入った外国映画は、『ワイルド・スピード SKY MISSION』『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』『ジュラシック・ワールド』の3本のみ。昨年の中国No.1ヒット映画は、『シュレック 3』の共同監督を務めたラマン・ヒュイ監督による国産SFファンタジー時代劇『捉妖記』だった。このほか、11位以下も含め、上位にランクインした中国映画のジャンルを見ると、コメディー映画や青春映画の人気が目立つ。
中国では、若い世代を中心に映画をネット配信で観る人が多い。そのため、映画館で観る作品はもっぱら視覚・聴覚で楽しめる大作映画という傾向がこれまでは強かったが、ここ数年はノスタルジーに浸る青春映画やドタバタのコメディー、リアリティー番組の劇場版など、親しみやすい中国映画が人気を博している。中国で作られる映画の傾向が変わったことの表れでもあるが、観客の好みに変化が生じているのは間違いない。
映画産業の発展に力を入れる中国では、ハリウッド映画の独壇場だったSFやアクション、3Dアニメの製作に乗り出すフィルムメーカーたちが現れ、『捉妖記』や3Dアニメ『西遊記之大聖帰来』のヒットからも分かるように、一定の結果を出し始めた。文化や国民性の違いがあるため、ハリウッドで中国人の感情にダイレクトに訴えかける映画を製作するのは難しいが、派手なSFやアクション大作、アメコミ・ヒーローものが並ぶ従来どおりの輸出作品リストでは、中国の観客の心をつかむのはどんどん難しくなりそうだ。
また、当局は認めていないものの、自国映画を保護するため、中国政府が外国映画の公開時期をコントロールしているという見方もある。その可能性も否定できないが、中国ではネットなどで話題になれば、それが好評・悪評を問わず観客が増える。要は、ハリウッド映画の命運も、作品次第であることに変わりはないということだ。
2015年の中国都市部の観客動員数は延べ12億6,000万人(前年比51.8%増)に達した。中国の都市人口が約7億人とすると、1人あたりの劇場鑑賞本数は年間1.8本。まだまだ伸びしろはある。昨年だけで1,200館以上の映画館が新設され、8,035スクリーン増えたという中国の映画市場。北京・上海・広州をはじめ、主要都市のスクリーン数はすでに飽和状態に近づいている。これからの成長を左右するのは地方都市の動向だ。地方の若者を映画館に呼び込めるかどうかが、今後の中国映画市場での成功を占うカギになってくる。(新田理恵)