塚本晋也、想田和弘と『野火』トーク 凄惨シーン追加の理由明かす
鬼才・塚本晋也監督と、新作『牡蠣工場』の公開を20日に控えるドキュメンタリー映画監督・想田和弘が17日、渋谷のユーロスペースで行われた映画『野火』の凱旋(がいせん)上映トークショーに出席、互いをリスペクトしあう作家同士が、刺激的な話を展開した。
壇上に立った塚本監督は「想田さんが発信するものでかなり勉強をさせていただいて。今日は先生とお会いするような喜びがあります」と笑顔。その言葉に恐縮した様子の想田監督は、「実は1997年に(塚本監督と)1度お会いしたことがあるんです」と告白。「塚本さんがベネチア国際映画祭で審査員をしていた時に、僕は『ザ・フリッカー』という短編を出品していたんですが、その時にファンですとお声掛けしました」と意外な接点を明かし、初対面だと思い込んでいた塚本監督を驚かせた。
大岡昇平の同名小説を原作に、戦争の悲惨さを描き出した『野火』。昨年7月の公開以降、現在も劇場上映が続き、第70回毎日映画コンクール(監督賞・男優主演賞)ほか多くの映画賞を獲得している。
トークショー直前にあらためて本作を観たという想田監督は、「描写的に見せない演出と見せる演出とのメリハリがきいている。(兵士の)頭が吹っ飛ばされるところとか、見せるところは徹底的に見せている」と感心。塚本監督は「実は最初、あのシーンは撮影をしていなかったんです」と明かすと、「でも戦争の恐ろしさを描くのに、なんだか足りないような感じがして。そういえばコンテに描いていたはずなのにやめてしまったことを思い出して、復活させたんです。昔、戦争体験者にインタビューをしていて、(そこで聞いた)悲惨さはあんなものではなかったので、やるべきだと思った」と述懐した。
実際に凄惨(せいさん)なシーンを付け加えた本編だが、ワールドプレミア上映が行われた第71回ベネチア国際映画祭では賛否両論の渦に巻き込まれた。塚本監督は「脳みそが出ちゃってたり、手を取ったり、顔が半分なかったり。セールスの人からもあのシーンをカットしたら買ってあげるよと言われた。予言されましたよ。それがある限り売れないって」と苦笑い。一方の想田監督は「あそこが印象的なんじゃないですか。いろんなところで上映されていますし、観客動員も伸びていますし、成功していますよね」と語り本作を擁護した。(取材・文:壬生智裕)
映画『野火』は渋谷のユーロスペースほか全国順次上映中