韓国の鬼才監督が福島原発事故扱った映画が日本初上映
韓国映画界の異端児キム・ギドク監督が日本の原発事故をモチーフに描き、いまだ日本公開が決まらない問題作『ストップ(原題) / STOP』の上映が2月28日、北海道夕張市内で開催された「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016」内で行われ、日本の観客がこの作品に対峙する貴重な機会となった。この日はギドク監督のほか、本作のプロデューサーで女優としても出演する合アレンも来場した。
日本の福島原発事故によって東京への移住を余儀なくされた夫婦の、子供を産むことに対する恐怖心を描き出した本作。今回の上映は貴重な機会とあって、会場には道外からも含め、大勢の観客が来場。衝撃的な内容の映画とあって、上映後の会場内はどことなく重い空気に包まれた。
そんな雰囲気を感じ取ったギドク監督は、少しずつステージ後方に後ずさり。そのことを別の登壇者から指摘されると、「緊張もあるけど、皆さんの顔が暗いので、そういう映画を作ってしまったのかなと思い、思わず下がってしまいました」と苦笑した。ギドク監督は「この映画のワールドプレミアはチェコの映画祭で、2番目は釜山国際映画祭。今日は3番目の上映となるが、今日が特に緊張しました」と心境を語る。この日の司会を務めた映画評論家・塩田時敏は、本作について「ギドクさんの映画は、ある真実をエキセントリックなドラマとして構築するが、今までは韓国のことが描かれていたから、日本人としてはワンクッションがあって。だから映画として、アートとして観ることができたけど、今回は日本人が描かれているので、そのエキセントリックさが直接的に感じられて。それがすごく気持ち悪いというか、恐ろしいというか……。でもそこが面白いなと思いました」と感想を述べた。
ギドク監督が本作の脚本を書いたのは、東日本大震災が起きた2か月後のことだったという。「シナリオを書くにあたっては、特にチェルノブイリの事故についての資料を集めました。センシティブな問題だと思いましたが、これは我々の問題ではなく、次世代の子供たちの問題だと思ったので、妊婦さんを主題にして話を考えました」と語ったギドク監督は、「もうすぐ“311”がやってくるという時期に、こういった映画をお見せすることで、だんだんと薄まってきていた悲しみ、痛みを再びもたらしてしまうのではないかという心配もあります。しかし犠牲者がいるのに忘れてしまうのは危険なことだと思う」とコメントした。
さらに「福島だけの問題を描いた作品ではなく、世界的な問題を扱った映画」と語るギドク監督は、「日本だけでなく、韓国でもこの映画を上映するのは難しい。韓国政府は原発推進派ですし、輸出国でもある。そんなところで議論を巻き起こすような映画を上映するのは好ましくないということです」と本作の特殊性について解説した。
一方、本作を観賞した日本の観客は、「この映画を観られて幸福」「放射能と妊娠との関係というタブーをストレートに描くというタブーへの挑戦に感動した」「福島に友人がいるので、どう消化したらいいのかわからない」など、戸惑う気持ちを正直に吐露。
最後にギドク監督は「日本で上映できるか心配でした。いつもわたしの映画を上映してくださる映画祭であっても、この作品の上映決定はできなかったようです。だからゆうばりでプレミアができたというのは驚きでもありました。本日は皆さんにとって衝撃的な痛みを持つ映画を観ていただき、そしてわたしの弁明ともいえる話にお付き合いくださり感謝しております」とあいさつ。塩田も「ゆうばりでストップするものはありません。期待してください!」と高らかに宣言していた。(取材・文:壬生智裕)