マイケル・ムーア、オバマ大統領広島訪問の意義を語る
凄惨(せいさん)な銃乱射事件を切り口に銃社会アメリカに疑問を投げかけた映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』でアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞したマイケル・ムーア監督がインタビューに応じ、今回のバラク・オバマ大統領の広島訪問について見解を語ったほか、自身の広島訪問についても振り返った。
新作『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』(5月27日公開)では、世界の国々にはあってアメリカにはないモノをアメリカに持ち帰っているムーア監督。本作の中で「侵略」した国のうちの1つであるドイツからは、「ナチスの残虐な行為を次世代に伝える」という「平和教育」を持ち帰り、インディアンへの差別や黒人奴隷制度について十分な教育をしないアメリカ国民に一石を投じている。
ドイツと同様に日本でも第二次世界大戦に関する教育が行われていることを「素晴らしいことだ」と話すムーア監督は、「オバマ大統領が広島を訪問することを大変嬉しく思う。でも驚いてはいない。彼はそういう人間だと思うからね」と評価した。また、「戦争以来、武力に頼らず平和的行為で問題を解決してきた日本の人々にオバマ大統領は感謝しているだろう」と話しつつ、「これまで武力なしでは問題を解決しようとしなかった国の大統領がそのことに感謝するっていうのは皮肉なことだよね」と述べた。
自身も広島を訪れたことがあるというムーア監督は、その体験を「心を動かされ、とても悲しかった」と述懐。しかしアメリカ軍の海兵として沖縄戦に参加していた彼の父親は沖縄の後の本土上陸を指示されていたといい、「原爆投下は本当に、本当にむごすぎる行為だが、もしかしたら父の命を救ったのかもしれない。父が死んでいたら僕はここにいない。誰もそのことはわからない」と複雑な心境を明かす。
ただ、「原爆が投下された時の日本はすでに、国の首脳部の意見とは裏腹にもう戦争を続けられる状態ではなかったのかもしれない」と分析するムーア監督は、「あくまで私個人の見解だが」と前置きしてから「その時のアメリカ大統領は『この爆弾が本当に使用可能かどうか試すべき』と誰かに説得されたんじゃないだろうか」と推測した。
「その行為を同じ白人に対して行うことはアメリカ人にはできなかったんだ」とムーア監督。「とても悲しいことだ。そして第二次世界大戦以降、アメリカはほとんど有色人種の国としか戦争をしていないんだ」と振り返り、「人種差別には吐き気がする」と続けた。「しかし今の我々には白人ではないアメリカ大統領がいて、彼が広島を訪れる。そして白人ではない人々に囲まれて話す。そのことは全ての人に訴える何かがあるのではと思っている」と願いを込めていた。(編集部・海江田宗)